2015-01-01から1年間の記事一覧

生田の森と生田神社

先日、神戸の生田神社に詣でた。神戸の代表的神社といっても良い。稚日女尊(わかひるめのみこと)を祭る神武天皇以来の伝統がある歴史的な官弊社でもある。x2007年に藤原紀香の最初の結婚式の場所といったほうがいいか。 しかし、生田の森はなんとも貧相な…

南方熊楠の見たる神道

大正の三奇人にして異才の代表格である南方熊楠翁の宗教観はなかなか錯綜している。あの世は信ぜぬが曼荼羅を説く、ジャイナ教を論じ大日如来を論じ、そして粘菌を論じるが、とくていの信仰には肩入れしていない。 ことさらに不思議なのは神社との関係だ。 …

『火垂るの墓』への海外の反応

野坂昭如氏が逝去した。その記事で引用される代表作『火垂るの墓』はジブリのアニメにより世界に知れ渡った。 海外のアニメへの反応が興味深い。もちろん「兄弟愛にうたれた」「日本でも悲劇があった」「悲しい」のような共通な感想が多いのだが、 「落ち込…

日本は沖縄に何を負っているか?

普天間基地の移設問題で沖縄県と国が論争と対立を繰り広げている。多くの内地の住民は補助金まみれの沖縄県の振舞いに眉をひそめているであろう。ましてや、中国との尖閣諸島問題で軍事衝突が懸念されているので日米安保の観点からも、沖縄県は譲歩すべきと…

アニメでロボットが巨大なのはなぜなのか? 民俗学的アニメ論の一例

あるアニメ好きの外国人の発言によれば、日本は巨大なロボットが守る国だと信じていたという。鉄人28号からマジンガーZ、ガンダムやエバに至るまでガタイのデカイロボットが大活躍する伝統がアニメにはあった。 では、アニメであるにしても、ことさらロボッ…

箒(ほうき)を逆さにもつ箒神

箒を逆さに立てる行為が客の去るようにするマジナイだという。ところで、石仏の一つの箒神というのがある。これが何故か箒を逆さに抱えている女性の神なのだ。「ははきがみ」とも言う。 かつてのホームドラマでは、ダメおやじが帰宅すると玄関にホウキを逆さ…

『ヘーゲル読解入門』の読解例入門 -経営者と従業員の弁証法-

コジェーヴの名著『ヘーゲル読解入門』(国文社)の読み解きを「経営者と従業員」という観点から実行してみるとしよう。従業員は非正規とするのが順当だろう。しかしながら、現代日本の貧相さを増す雇用状態からすれば、正規従業員こそ当て嵌まるのだする立…

山の神と『年中行事覚書』

柳田国男の『年中行事覚書』はその地味なタイトルのせいで等閑視されることが多い。自分もそうであった。アナログ媒体として所有はしていたが、まともに読み終えたのは「青空文庫」で公開されてからだ。2年もたっていない。 山の神は民俗学の始まりのときか…

俗物たちのパラダイス 金融とマネー幻想

金融サービスは現代社会にとって本質的な存在だ。電子マネーがこれほど気楽に使えるのも、ローンを組んで好きなモノを買えるのも、海外旅行が自由気ままに楽しめるのも金融テクノが高度に発達したおかげである。 織田信長の楽市楽座、あるいは近年の金融ビッ…

中勘助と島ごもり

ロングセラーとして知られる『銀の匙』は主人公の幼少時の思い出を味わい深く綴った好著だ。癖のない文体でノスタルジックな情感を伝えるその人柄の特徴はその小説には刻まれていない。確かに著者である中勘助のことはあまり知られていない。 彼は28歳の時…

スティーヴンソンの語りの魅力

小説家ロバート・L・スティーヴンソン(1850-1894)は、もはや『ジキルとハイド』『宝島』くらいしか読まれておらず、残りははい、オシマイ。 そんな扱いを受けている。多分、文庫や小中学生向けの名作集ですら同様であろう。 しかしながら、あの驚くべき読み…

インパクトのある風刺の行方はいずこ?

筒井康隆の『公共伏魔殿』から引用しよう。 「うそをつきなさい」と、おれはいった。「反対意見なんか、お座なりもはなはだしい。出席者の顔ぶれを見ればわかります。政界からの出席者は与党の連中ばかりじゃないか。学界や文化人や、その他の民間人だって、…

ミラノ博で日本館が一番人気に憂慮する

このほど閉幕したミラノ博で日本館が長蛇の列で好評だったそうな。フレンチや中華料理並みのプレゼンスを和食を持ちうるわけだ。それはそれで誇らしいような気がするのが島国根性だ。 和食は洗練された食事様式であるし、ヘルシーで調和が取れているのは確か…

古代の聖なる入れ物

古代人、東南アジア系の古来からの信仰には「神の入れもの」があったと推測されている。 岩田慶治によればラオ族やタイ族の祠堂はガランドウであるという。マツリの時だけでそこに神が来たり給うのだ。また、岩田は国史家の西田直二郎を引用する。 手近に神…

阿仏尼は先駆的なオンナ

『十六夜日記』は多くの人にとり、高校の古文でスレ違うことがあっただろう。 中世の紀行文であり、阿仏尼というなんだか変わった名前の女性の手による文学史上の作品であることなどはウッスラと覚えておる向きもあろう。 冷泉家という藤原定家を先祖の一人…

初音ミク論 作り物に宿る一瞬の永遠美

初音ミクは新しいものではない。われらの遠い父祖の人形(ひとがた)の末裔なのだ。 人形は古来の芸能のなかで特別な場所にある。また、人の姿をかたどった人形は島国の深い情緒の源泉にある。 文楽はその偉大な伝統の残滓だ。近松門左衛門という人形劇界の…

戦後の日本が怪獣映画に込めた暗い情念

ゴジラの映画音楽で有名な伊福部昭の戦前の曲『古志舞』には太平洋戦争の士気高揚がみなぎる。この曲想がやがて東映の科学的娯楽映画によみがえることはファンならご存知だろう。そして、それら映画音楽の基底を流れる情念は滅んだ大日本帝国への想いが潜ん…

イ号潜水艦が攻撃したアメリカ本土の町

スピルバーグの忘れられた快作『1941』で描かれた1941年の大日本帝国海軍の潜水艦によるアメリカ本土攻撃、その場所はオレゴン州アストリア市だった。 フォート・スティーブンス砲撃だ。同時に零式小型水上偵察機によるアメリカ本土爆撃も行った。 …

和泉式部の「もの思い」の語感

昨夜は和泉式部の足袋の説話に足元を救われてしまった。本当は彼女の歌を取り上げてみたかった。 ものおもへぱ沢の螢もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る 捨てられた男のことを思い悩むあまりに心は乱れて我が身を離れ去りホタルとなりはてたような虚ろ…

和泉式部の足袋

王朝期の恋多き悩める美女、和泉式部には多くの民間伝承が仮託されている。柳田翁が「桃太郎の誕生」に収めた「和泉式部の足袋」はなんとも不思議な縁を足袋と和泉式部のあいだに取り持つ伝承だ。 和泉式部は鹿の子どもであって、その足は二つのヒヅメに割れ…

マンホールの蓋の意匠

石井英俊氏の『マンホール』を読んでいる。通読するというよりはパラパラと気ままな流し読みをしている。 全国市町村はどれほど手間ひまかけかけてマンホールの蓋に地域の伝統を埋め込んだかがわかる。しかし、なぜこうまでして踏み絵にもなり兼ねない鉄の円…

ポール・クローデルの日本への哀悼

20世紀前半に来日した西洋知識人のなかでもポール・クローデルという高い感性の知日派を持ち得たのは幸運であった。 大正時代にフランスの外交官として日本に赴任したクローデルは彫刻家の姉の影響もあり、若い頃から日本への憧憬を抱いていた。 彼を待ち受…

宇宙時代のカシオペアサウンド

映像的にはこちらをhttps://youtu.be/Ii74U38f6o0

ウィーダ『フランダースの犬』の涙の系譜

ベルギーのアントワープの聖母大聖堂に来る日本人観光客には特徴があって、ルーベンスの名画「聖母被昇天」の前で涙ぐむという逸話が朝日新聞に掲載されて記憶がある。地元のヒトには不思議な事に思えたというのだ。 ウィーダ『フランダースの犬』でのネロと…

継体天皇の王朝

盲人の文化

ホメロスは盲人だった。本当かどうかは知らないが古代ギリシアではそう信じていた。しかし、生まれながらに盲目であったとすると色彩とか鎧の模様などについて詠うことは無理だったろう。 偉大な叙事詩の作者もしくは語り部が盲人であったという言い伝えは、…

最近の「未来予測」の傾向=経済予測

結論からすると、最近の近未来予測は政治的な対立をメインに将来を予測することはない。「安定なグローバル化した市場がありき」での議論が前提になる。 「政治の季節」は終わり、経済活動と消費の欲望を満たす時代風潮がむき出しになったようだ。また、先進…

針の先で天使は何人踊れるか

スコラ哲学の煩瑣な議論を揶揄するための例として、「針の先で天使は何人踊れるか」を中世の神学者たちはまじめに論じたとされる。 どうやらそれはあくまでも皮肉るための例示だったようだ。 稲垣義典によればその一番近い論拠は聖トマスの「スンマ」の第一…

蓬莱(ほうらい)や御国の飾(かざり)檜山(ひのきやま) 杜国

この句は名古屋の商人にして俳人、坪井杜国の句だ。この一句が記憶によみがえる理由は一つ。 芸が命を救ったからだ。杜国は名古屋市内の御園座近辺で米商いを担った豪商の一人らしい。 ご法度(はっと)とされていた空米売買の科で死罪のところ、徳川光友がそ…

極東軍事裁判の前後の対インド関係

極東軍事裁判、つまり、東京裁判のさなかに大川周明は椅子を叩いて「インド人よ来たれ」と英語で叫んだ。 その期待に応えたかどうか、インド人判事のラダ・ビノード・パルは日本人被告らに無罪宣言をしている。事後法で裁くな、戦争犯罪はあったが東條英機ら…