筒井康隆の『公共伏魔殿』から引用しよう。
「うそをつきなさい」と、おれはいった。「反対意見なんか、お座なりもはなはだしい。出席者の顔ぶれを見ればわかります。政界からの出席者は与党の連中ばかりじゃないか。学界や文化人や、その他の民間人だって、はっきり右翼とわかる人ばかりだ。この間みたいに、第一回日本火星探検隊の騒ぎがあった次の日の討論会なんか、なおさらそうだった。出席者の中に、野党や左翼はひとりもいない」
主人公が公共放送の料金徴収係に反論した内容だ。1967年の作品だ。ベ平連などが活発だった頃だろう。政治の季節であった。
かくて、今や21世紀。時代は変わった。その間に筒井康隆もNHKに俳優として出演してしまった(それもずいぶん遠い昔だ)。
毒のある風刺をする人たちもいつの間にか消え去っている。なんというか右も左もぶった切れ、世の中おかしいことは笑いのメス(のめす)で斬りまくる手合がいない。
もはや活字は流行の主流から外れたし、テレビはネットに飲み込まれている。ブログで即席的なコメントを書いていてもすぐに炎上するのだから、どうにも風刺家の居場所はないのかもしれない。
ローマのユウェナリスやイギリスのジョナサン・スウィフト、あるいは我が国の壮年期の筒井康隆や井上ひさしといったサタイヤ連がどうして姿を消してしまったのか?
時局迎合の胡散臭い連中か、反対のための反対を声高に叫ぶかヘイト連か、クレームを消費者庁につぶやくだけの輩しか、いつのまにやらいなくなってしまったのだ。
哄笑の聞こえない寒々とした精神文化の中に、我ら一般市民は置かれている。
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