宮沢賢治の傑作「原体剣舞連(はらたい・けんぶれん)」には次の一節がある。
Ho!Ho!Ho!
むかし達谷(たつた)の悪路王
まつくらくらの二里の洞(ほら)
わたるは夢と黒夜神(こくやじん)
首は刻まれ漬けられ
アンドロメダもかがりにゆすれ
青い仮面(めん)このこけおどし
太刀を浴びてはいつぷかぷ
夜空の底の蜘蛛をどり
胃袋はいてぎつたぎた
青春の天才詩人を訪れた古代幻想の一瞬だ。詩人のビジョンは詩によって民族の記憶に永遠に刻印されたといえる。
「悪路王(あくろおう)」は征夷大将軍となった坂上田村麻呂により征伐された東北(岩手地方)の支配者として『続日本紀』(桓武天皇の御代)に出てくる。阿弖流為のことであります。
彼こそはまつろわぬ民の英雄であった。
ところで、房総山地(千葉県)にも同じ伝説が語り継がれているのは『日本百霊山』ではじめて知った。
鹿野山は君津市の代表的な山であるが、阿久留王伝説がある。日本武尊により征伐された部族の王だとされる。もとより記紀には出てこないが、日本武尊と一戦を交え、叶わぬとみて命乞いしたが一族皆殺しとなった。その命乞いの場所を「鬼泪(きなだ)」といい、血の流れた川を「(血)染川」
土地の人びとは阿久留王の供養をいまだに続けていると『日本百霊山』の著者は書いているが、彼は地元の製鉄業者の祀りを目撃している。
「あくろ」「あくり」の語がもつのは岩手地方も房総も共通だというのが面白い。「久留里」という千葉の地名も思い出される。
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