中国古代の民衆の歌が残る。題して『撃攘(げきじょう)の歌』
なんとも力強く芯の通った歌謡である。現代詩には喪われた原初の響きがこだましている。
日出でて、はたらく
日おち、ねる
井ほり、飲む
田たがやし、食う
帝の力、われに何の関わりあらん
原漢詩はこうだ(一字当て字がある)
日出而作
日入而息
壕井而飲
耕田而食
帝力於我何有哉
堯(ぎょう)という古代の帝王が自らの政治の良し悪しを知ろうと遊歴している時、老人が田を耕しながら、この詞を朗々と歌っていた。帝はそれを聴いて安心したというのだが、これは上から目線の解釈だ。
堯舜の時代を理想とする後世の儒者たちの解釈であろう。
この古い民謡が示すのは中国の民衆は政治などの容喙(ようかい)を受けずとも一向にかまわない。独立独歩でやるから、どうかほうっておいてくれ(レッセフェール)。そういう声なんだと思うのだ。
そもそもの始原の昔から中国人たちは中央政権などと関わりなく生きるのが幸いだと主張していたのだろうと思うのだ。だとするなら、中国民衆は日本人以上に中央権力のすることなど眼中にないことになる。儒教的というより道教的であり、老子的というより莊子的なのだ。
現在の中国の共産党政権といえども、6000年の民衆の本性を変えることできはしない。
- 作者: 松枝茂夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1983/09/16
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