日常用品で見かけることはないが、「ひょうたん」という植物は古くから日本人(中国人)のイマジネーションを刺激することが多かったらしい。
浦島太郎は腰ミノにひょうたんをぶら下げている。近世の想像画であるにせよ、昔の漁師は飲水をひょうたんで運んでいたのは確かだろう。
最初は中野美代子『仙界とポルノグラフィ』をビギナー向けにオススメするところから始めよう。その一篇「ひょうたんの宇宙」という魅惑的なタイトルでひょうたんワールドに突入する想像衝動を得ることができよう。
『西遊記』の金角銀角のひょうたんからジョン・ディー、『平行植物』や道教でのひょうたんなどを知ることになろう。中国文学専攻の著者なのに、不思議なことに西遊記以外の中国書が扱われない。
もう少し日本の事情を汲み取っているのは日野巌『植物怪異伝説新考』であろうか。「9.瓢箪から駒」は中野美代子より、東洋世界に深入りできる。3頁だけだが、瓢箪より馬を出すというモチーフを紹介しており、その由来は不明としている。
仙人がひょうたんからなんでも取り出すという伝説には、何やら神話的な薫りがする。ドラえもんポケットの東洋的な原点がひょうたんなのかもしれんね。
瓢鯰図もここで出る。鯰を瓢箪で抑えこむというのはぬらくらした生き物をとらえどころのない瓢箪で抑えこむという図式の滑稽さ以上に、天上界と地底界が交錯するイメージがある。
何やらアウエハントの考察に連なる古代心性が仄めいている。
栽培植物の起源からひょうたんを見ているのが中尾佐助であろうか。『栽培植物と農耕の起源』ではサバンナ農耕文化複合から伝わるとしている。朝鮮では「パカチ」というヒシャク(柄杓)がひょうたんであるという。古来、朝鮮や日本の漁民や海洋民は瓢箪を愛用したのだろう。
道教、とくに風水と瓢箪は関わり合いが深いと思う。
その辺の事情通は三浦國雄で、その『風水 中国人のトポス』が明らかにしている。ひょうたんの内側に広がる世界というのが「壺中天」である。中国的思考は古墳時代の日本に影響を与え、「前方後円墳」となったという説もある。
しかしながら、前円後円墳であればまだしも前方後円墳というのはひょうたんではなかろう。
縄文人がひょうたんを使いこなしていたと小山修三は説く。彼が書いた『美と楽の縄文人』で福井県と石川県の縄文期遺跡からひょうたんの関連出土品を示しているが、日本海側というのが気になる。それはつまり、古代朝鮮の史書『三国史遺記』の日本人、瓢公がひょうたんと結びつけながら登場するからだ。
ひょうたんの宇宙像を図示してくれたのは平田篤胤だ。『霊能真柱』は平田国学の精髄が詰まる。平田翁の地上界と幽冥界が合わさるとひょうたんの形になるのは偶然ではあるまい。
『霊能真柱』より
現代において、「ひょっこりひょうたん島」というテレビシリーズに井上ひさしと同じ出羽人たる、平田翁の信仰が仄かに生き延びたとしたい。井上ひさしの元構想によるならば、ひょうたん島でサンデー先生と子どもたちは死後の理想世界を過ごしてる。
島内は彼らの幽冥の領域なのだ。その証拠に彼らは島から出てゆくことが出来ない。死んだことに気づかない死者たちの楽園、彷徨える幻島なのだ。
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