伝説的ワイドスクリーン・バロックのSF作家ハーネス

 ブライアン・オールディスがその古典的評論『十億年の宴』でSFの一つの頂点として打ち上げた様式が「ワイドスクリーン・バロック」であった。そのことは古株のハード系SFファンの記憶にしか残っていないであろう。
 典型がアルフレッド・ベスターの『虎よ!虎よ!』であったが、その熱烈なファンも今ではそう多くは生存していないかもしれない。あるいは『キャッチ・ワールド』のクリス・ボイスや『カエアンの聖衣』のバーリントン・J・ベイリーだったりする。
 奇想天外なガジェットに装飾された破天荒なストーリーが冒頭からエンディングまで広大無辺な想像力を駆使して展開されるのが特徴だ。
 うん、ベスターは最高であった。

 なかでも、伝説のチャールズ・L・ハーネスはその伝説の座に君臨していながら、日本では不遇をかこっている。幾つかの珠玉の短編とマイナーな長編『ウルフヘッド』が紹介されているだけだ。
短編は「時の娘」、「現実創造」それに「時間の罠」であるが、いずれも緊密なプロットであり緊迫感のある、そして科学的想像力の限界点を極めているものだ。

 代表作である長編『Paradox Man』と『Rose』、それに『The Ring of Ritornel』が紹介されていなのは本当に日本のSFファンの不運と自分は嘆くことしきりである。

 所蔵しているPaparbackの表紙を関係諸氏の参考のために捧げておこう。 1968年版バークレイ・メダリオンブックの一冊であります。後生大事に抱えているが、Kindle版は数百円で購入できるのだ。がっかり。



【ハーネスの短編の書誌】

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

「時の娘」所収のオムニバス

「現実創造」はもっとも破壊的なSFだろうか。

タイム・トラベラー―時間SFコレクション (新潮文庫)

タイム・トラベラー―時間SFコレクション (新潮文庫)

かなりヒロイックで悲劇的な「時間の罠」は心に残る。
この傑作集の文庫はだいぶ古いよねえ。


ウルフヘッド (1979年) (サンリオSF文庫)

ウルフヘッド (1979年) (サンリオSF文庫)

唯一の長編翻訳の小説は往年の迫力が失せていた。伝説のサンリオSF文庫シリーズの一作。


The Ring of Ritornel (Gateway Essentials) (English Edition)

The Ring of Ritornel (Gateway Essentials) (English Edition)

Kindle版の「リタネル」もある。