ロシア革命の悲劇のヒーローというべきレオン・トロツキーは、天賦の才能に恵まれた英傑だったのは確かであろう。組織をまとめる才覚はレーニンに継ぎ、比肩するもののない雄弁と判断力と機転がある。白色反革命を凌いだその軍事的能力も党内随一だった。
多芸多才という表現はこの人物にこそふさわしく、文芸評論や歴史家のセンスも持ち合わせていた。
余計な感想だが、トロツキーはフランス革命でのサン・ジェストに似ていなくもない。ロビスピエールの片腕であるこの若ものは軍事的才能と異端分子を切り捨てる果断さで革命の燭天使と呼ばれた。
しかしながら、如何に優れた人物であっても、所詮は、20世紀の共産党独裁の狂気を体現していたのだ。それはクロンシュタットの反乱を完膚無きまで弾圧した、その事実で十二分だろう。
いかなる異見、赤色革命とボルシェヴィズムへの異なる政治的見解も行為も受け入れない。そのドグマは、個々の人間性やその生き方の多様性などを軽視する点でスターリニズムと大差ない。
よって、レーニンの後継者争いに勝ち残ることがあったとしても、ソ連は必ず政治的な意見の自由を非合法化し、粛正と強制収容所でもって異なる見解を消去することになったであろう。
それは他国での共産党政権の経路が描く必然の軌跡であった。中国、ベトナム、北朝鮮、ユーゴスラビア、カンボジア、キューバ等々例外はない。
1921年のクロンシュタット反乱がどのような性格かをふりかえる。この海軍要塞に属する水兵たちは「革命の英雄」だった。彼らが10月革命で果たした役割は軽いものではない。
革命政権に突きつけた彼らの要求は至極当然のものであった。労働者と農民への政治的譲歩と自由な選挙だ。
包囲戦で攻撃の対象となった叛徒たちの呪詛の対象はトロツキーとジノヴィエフだった。
トハチェフスキー指揮の赤軍による一掃作戦で「2103人が死刑の判決を受け、6459人が投獄され、8000人の反乱軍兵士が亡命した」とされる。
それでもソ連から追放されてから、トロツキーはクロンシュタットの弾圧について弱々しく弁明を試みている。
「彼らは革命への献身を忘れた大衆に過ぎず、特権的な食糧の割当をえたいという欲望から出た」、「最良の革命分子は島から出ていた」という惨めな言いがかり的弁明だ。
また、こうも居直る。
「社会革命の苦難とプロレタリア独裁の厳しさに対するプチブルジョアジーの武装された叛乱以外のなにものでもなかった」
異質な意見をブルジョア的か反革命と断言して憚らない体質が色濃くにじみ出る。今後、あらゆる異論は反革命と断罪されることになる。
こうした弾圧政治はスターリン治下の独裁政府に引き継がれてゆく。
ロシア語のドキュメンタリ
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