ジョン・ダン『死よ、騎るなかれ』(Death Be Not Proud)を読んで

 いまさらながらに揚言するなら、形而上詩人ジョン・ダンの作品は見事だ。
この17世紀の英国詩人は聖職者にして伊達な通人、武骨者でありながら思想家だった。

 『死よ、騎るなかれ』は不可避の宿命たる死へ挑戦状というべきものであろう。レトリックを駆使して詩人は恐るべき死に雄々しく立ち向かう。咎めだてする相手が相手だけにありきたりの表現力では、かえって卑小な自分がいるだけに終わってしまう。
 そこは形而上学詩人。華麗な直喩と隠喩の離れ業をやってのける。現象界を離れること三千里、死というコロッサスを揶揄、幻惑、翻弄するのだ。

 死よ、騎るなかれ、たとえ皆が貴公を強大で畏怖すべき者と
 呼んだとしても、貴公はそんな大それた者ではない。

 この詩句で始まるのは有名だろう。

 そして、末期の一句は鮮やかだ。

One short sleep past,we wake eternally,
And death shall be no more. Death,thou shalt die.

「しばしの死の眠りの後、我らは永遠の目覚めを迎える。
 そうなれば、死よ、貴公は死すべきものとなるしかないのだ」

 キリスト教徒の信念の優位性がこの一句に凝縮されている。仏教徒にはこのような積極性を期待できない。

 手軽に読める対訳版。英語・英詩の魅力というはこういう本でこそ味わえる。

対訳 ジョン・ダン詩集―イギリス詩人選〈2〉 (岩波文庫)

対訳 ジョン・ダン詩集―イギリス詩人選〈2〉 (岩波文庫)

 エリオットもダンを賞賛している。

エリオット全集 4 詩人論

エリオット全集 4 詩人論

 注目すべき形而上詩人というグループについては成書は少ない。この本、大昔に拾いヨミ的に読んだ。今では、pdfになってディスクの奥に眠っているはず。

神秘思想と形而上詩人達 (1976年)

神秘思想と形而上詩人達 (1976年)



 同じジョンだが、20世紀のジャーナリストであるジョン・ガンサーの闘病記のほうが日本では有名だろう。もちろん、ジョン・ダンの詩を踏まえたタイトルだ。古い本だ。今でも引用されることは多いのは、この種書物の古典だからだろう。ジョン・ダンの詩と合わせて読みたい。

死よ驕るなかれ (岩波新書 青版 (40))

死よ驕るなかれ (岩波新書 青版 (40))