いまさらながらに揚言するなら、形而上詩人のジョン・ダンの作品は見事だ。
この17世紀の英国詩人は聖職者にして伊達な通人、武骨者でありながら思想家だった。
『死よ、騎るなかれ』は不可避の宿命たる死へ挑戦状というべきものであろう。レトリックを駆使して詩人は恐るべき死に雄々しく立ち向かう。咎めだてする相手が相手だけにありきたりの表現力では、かえって卑小な自分がいるだけに終わってしまう。
そこは形而上学詩人。華麗な直喩と隠喩の離れ業をやってのける。現象界を離れること三千里、死というコロッサスを揶揄、幻惑、翻弄するのだ。
死よ、騎るなかれ、たとえ皆が貴公を強大で畏怖すべき者と
呼んだとしても、貴公はそんな大それた者ではない。
この詩句で始まるのは有名だろう。
そして、末期の一句は鮮やかだ。
One short sleep past,we wake eternally,
And death shall be no more. Death,thou shalt die.
「しばしの死の眠りの後、我らは永遠の目覚めを迎える。
そうなれば、死よ、貴公は死すべきものとなるしかないのだ」
キリスト教徒の信念の優位性がこの一句に凝縮されている。仏教徒にはこのような積極性を期待できない。
手軽に読める対訳版。英語・英詩の魅力というはこういう本でこそ味わえる。
- 作者: ジョンダン,湯浅信之
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/01/17
- メディア: 文庫
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エリオットもダンを賞賛している。
- 作者: 平井正穂,トマス・スターンズ・エリオット
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1981/04/01
- メディア: 単行本
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注目すべき形而上詩人というグループについては成書は少ない。この本、大昔に拾いヨミ的に読んだ。今では、pdfになってディスクの奥に眠っているはず。
- 作者: 荒川光男
- 出版社/メーカー: 松柏社
- 発売日: 1976
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同じジョンだが、20世紀のジャーナリストであるジョン・ガンサーの闘病記のほうが日本では有名だろう。もちろん、ジョン・ダンの詩を踏まえたタイトルだ。古い本だ。今でも引用されることは多いのは、この種書物の古典だからだろう。ジョン・ダンの詩と合わせて読みたい。
- 作者: ジョン・ガンサー,中野好夫,矢川徳光
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1974/09/20
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