「さだこ」という名はどうやら運のめぐり合わせが良くない。それが歴史的にたどれる。別に「さだこ」さんたちに私怨はない。単に意外なトラディションを見つけたというにすぎない。
歴史的には清少納言の仕えた藤原定子が始まりだ。「ていし」とも「さだこ」とも呼ばれる。彼女は一条天皇の中宮となる。関白内大臣正二位藤原道隆の長女という名家の出。出だしは順調だったが、やがて不幸が重なり、24歳にして産後の肥立ちが悪く亡くなる。その後、藤原道長とその娘、彰子が栄耀栄華を究めるのと対比して定子の家系は兄、藤原伊周を筆頭に没落してゆく。
サダコはそれ以来、ゆるやかに褪色してゆく。
明治期の小説家有島武郎の『或る女』に出てくる私生児の定子。彼女は脇役でしかない。「サダコ」への近代のはじめのケチのつけ始めであろう。あるいはオペッケ節で有名な川上音二郎の相方の貞奴(さだやっこ)も類縁かもしれない。
実在の人物では、超心理学者である福来友吉にその超能力(念写)を見出された高橋貞子も不名誉な消え方をした。
名前が一字外れるが「阿部定」に言及しないわけにはいかないであろう。1936年に起きた猟奇事件の被告であった。世にいう「阿部定事件」は世間の耳目をそばだたせた。
1945年の広島の原爆の犠牲となった「禎子」は多くの千羽鶴に囲まれて短い生涯を白血病に蝕まれた。少女の哀話は映画ともなった。
こうして 女子の名前としての「sada」には宿命=定めの影がつきまとうようになると自分は推測している。さだめは死なのだ。
そして、ホラー映画『リング』シリーズの山村貞子は、ついにスクリーンからにじり寄るモンスターへと変容を遂げた。
平安朝の藤原の姫君から続いた落魄の終着地点であったといえないだろうか?
ただし、大きな例外としては国連難民弁務官となられた緒方貞子がおられる。
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そうそう、名タイトルである『愛はさだめ、さだめは死』は浅倉 久志による翻訳であるが、その作家ジェームズ・ティプトリー・Jrという作家も不幸な定めを負った女性だったりする。
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