歴史人口学と宗教

 歴史人口学の根拠は戸籍となるのだが、それが近代的なものとなって使えるようになるのは近代国家の成立を待たねばならない。
 それ以前の近世のミクロな人口動態は日本では宗門改帳、フランスでは教区簿帳に求めることになる。ということで、いずれも宗教的な教徒の把握から人口情報を検討することになる。

 それはそれとして、近世での乳幼児死亡率はどこの国においても恐るべき高さだった。近世以前には二歳児未満を計上しないことが多かったという。江戸時代でも150パーミル(1000人あたりの死亡数)と極めて高かった。堕胎を入れたら相当な数だと思われる。子ども時代を無事切り抜けるのも大変だったであろう。
 これが地蔵菩薩の多さになる。石仏のうちの半数くらいは地蔵菩薩ではないか?

 明治期になってからは幼児期死亡率は相当改善されていったであろう。しかし、まあ、樋口一葉石川啄木宮沢賢治などの生涯がどれだけ短期間であり、健康な時期が限られていたかというのは誰でも承知している。
 しかし、彼らの生が特殊というわけではなかった。友人や肉親、恋人の死は、現代人の想像以上に頻発していたのは昭和時代の後半直前まで持続したというべきだろう。

 少子高齢化の別の側面というのはそれ以前の日本人とは比べ物にならないほど、死と隔離されてきているということだろう。あまりに切り離されているので、娯楽コンテンツとしてミステリーや戦争ものコンテンツがその穴埋めをしていると言えなくもない。

 短期的な現代人のライフコースはほんの数十年前に確立したものに過ぎないということは歴史人口学からの重要なメッセージだ。



 速水融のこの概括的な参考書によるとシリアは中東で最高の平均出産数であったそうだ。それが悲惨な内戦に関係しているのかもしれない。

歴史人口学の世界 (岩波現代文庫)

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