武士や大名の紀行文

 ゆえあって、日本文学史を繙いてみたのだが、武士が紀行文を残しているのを初めて知った。それもかなりメジャーな武士が文章を残している。
 ときは室町時代あたりだ。

まず、二代将軍の足利義詮摂津国住吉神社に詣でた紀行文『住吉詣』。かなり達意の文章だという。
 『道ゆきぶり』は今川了俊の京都から九州に下向する時の紀行文である。了俊は北朝側の武将として歴史的に有名だ。京から赤間まで陸路というのが興味深い。
彼には『鹿苑院厳島詣記』もあるという。

 さらに、細川幽斎の『九州道の記』や『東国陣の記』。北条氏康の『むさし野の紀行』、豊臣勝俊の九州の道の記、蒲生氏郷の紀行があるという。

 北条氏康蒲生氏郷の紀行文なんて、そんなものがある事自体、不思議な事だ。それにしても、我らの日本史理解とはずいぶんと浅いものだというほかない。

日本文学史改訂新版・中世【3版】

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