あまりに著名だけど盲点になっているとしか思えないのが、司馬遼太郎が『街道をゆく』で書き残した超常現象の体験である。
超能力に批判的なはずの週刊朝日も当時は緩かったというか、大家には頭が上がらなかったというべきか。
その体験を引用しておこう。『街道をゆく』の第4巻「洛北諸道」だ。
記者時代の回顧談がここから始まる。京都での新聞記者だった頃の話しだ。
こういう住職から紹介されたのが「上田さん」だ。山岳の行者である。
私が真言密教のことを知りたくて足を運んでいたころは、この寺にはいろんな怪奇があった。
そのことはずいぶん以前、随筆で書いてしまったから省くが、その後この寺で大和の上田さんと同宿することができ、深夜、山中にお供をしてその呪法をみせてもらった。
枯れ滝のそばで、火の玉が湧きあがるのもみせてくれた。アルミ硬貨ほどの鐙光色の発光体で、それがいきなり宙に浮き、しばらく消えずにいる。
オンナアピラウシケン
という呪言をとなえ、印を結んだり合掌したりしているうちに気力が充実するのであろう、あたりを切り裂くような気合をかけると、とたんにこれが出るのである。帰路、山道の道端でも上田さんはこれをやってくれて、火を浮かばせてくれた。
「竜火です」
と、上田さんはこの火をそういう名前でよんでいた。
確かに、そういう火の玉を司馬遼太郎は観たのであろう。本当に竜火が実体としてあるかは問わない。ただ、中に浮かぶ発光体を感じたのだ。
この現象は主観的な体験といってもいいだろう。けれども行者と一体となったヒトには視えるのだと思う。
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