オーウェン・バーフィールドやルイス・マンフォードは、近代におけるひとつの技術、ひとつの概念がもたらした「世界観の変容」をことのほか見事に描き出す。
マンフォードのことば
ガラスは世界を一つの枠内に入れるに役立ち、現実のある要素をいっそう明瞭に見えるようにし、枠によって仕切られて鋭くかぎられた視野に、人々の注意を集中させたのである。
中世のステンドグラス、そしてガラス窓のあとに、望遠鏡や顕微鏡が続々と登場してゆく。自然が異なる相貌をもつ、裸眼でみたままの世界はほんの一面でしかないことを初めて気がついた瞬間、それを現代人は想像できるだろうか?
当時、その影響は深甚であった。視野の拡張は思考の拡張、あるいは別次元への解放を招来したのだろう。
外界がこうしてガラスによって変化したとすれば、内的な世界もまた同じく変化を蒙った。ガラスは人間個性の発展に深い影響を及ぼして、自我の概念の変容にすら一役を買った。
同じような犀利な言語史的な展望をオーウェン・バーフィールドは開拓した。
彼らの深い考察がもたらすものは何なののだろうか?
現代人の精神構造の分解。近代的自我の自明性の解体とその復元。我らは何を獲得して、何を喪失してきたかについて思いをめぐらすこと。これって現代文明を見直すために必須なのではなかろうか?
マンフォードの技術史の代表的著作『技術と文明』
それは技術による視点である。言葉による変容、メディアによる変容も交錯して近代が人びとの精神の在り方を後戻りできないものに変えてゆくのだ!