慰安婦像問題の社会心理

 韓国の慰安婦像の争点は突き詰めて言えば、第二次世界大戦における「大日本帝国の女子挺身隊は強制的な慰安婦の制度」であり、「朝鮮人の少女たちがその犠牲者となった」ことが真か偽かということになる。
 この点に関しては、議論の余地はあまりなく、当時の大日本帝国の官憲が関与したそのような制度は存在しなかったことになる。帝国の官僚たちの残した管轄組織の文書には「公的」慰安婦に関する指令も措置も情報もなにもないからだ。
 民間の業者に帝国陸海軍が支援をしたかもしれないが、そんな公的文書もないであろう。よしんばあっても「女子挺身隊」や公的権力による強制とは無関係となる。

 隣国では「偽史」意識が盛んで、過激なナショナリズムと相互に影響しあっていることは、上記の争点への判断を著しく損ねているだろうが、とくに、日本との歴史的関係においては、情緒的な反応を切断することは困難である。

 例えばの話、秀吉の朝鮮征伐(何がの征伐なんだというのもあるが)の被害には悲惨な史的事実がある。
 耳塚・鼻塚などはその最たるものだろう。「拉致した非戦闘員のものもあるという」とウィキペディアにもある。
1919年の三・一運動の弾圧なども数えてもいいかもしれない。あるいは関東大震災朝鮮人虐殺もそう。
 プライドが高い民族を統御する政治的手腕など持ち合わせていなかった日本人の限界なのだろう。
そんな民族の対日感情の奥底には「怨恨」があるといっていい。
 そうした情緒は歴史的事実などよりも、歪曲されがちな「記憶と証言」を採用して、その情念を燃やし続けてゆくだろう。理性的な説明だけで、簡単に鎮静化できるものではない。



【参考文献】

 日本から見る限り、孤立無援の中での著者の啓発活動には敬服する。

帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い

帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い

  • 作者:朴 裕河
  • 発売日: 2014/11/07
  • メディア: 単行本


 歴史は捏造される物語だ。「単一民族国家 日本」だってそうだった。
 

創られた伝統 (文化人類学叢書)

創られた伝統 (文化人類学叢書)

  • 発売日: 1992/06/01
  • メディア: 単行本


 自己正当化というバイアスもありそう。エリザベス・ロフタスも孤独な学者だったが主張を貫いた。