廃仏毀釈の遠因

 明治初期におきた廃仏毀釈運動は庶民が率先して実行した仏教寺院の打ちこわしだった。起きたことは明白なのだが、その原因は諸説ありどれという定説はないようだ。

 ここで自分は「天竺亡国説」を出しておこう。つまりは、仏教を生み出したインドがヨーロッパ列強の支配下に入り、それどころか仏教そのものが廃絶の憂き目にあった、その事実が廃仏毀釈の背景要因だという奇説である。

 開国を余儀なくされた、その一因は江戸幕府の権力と正当性の衰弱であった。志士たちの多くは国学的もしくは陽明学的な行動論者であり、このままでは支那や東南アジア諸国のようにヨーロッパ列強に支配されるという危機意識を強烈に持っていた。
 一般庶民は徳川幕府とその支配の手段となっていた寺請制度の虚妄姓に怒りを向けた。仏教は国体も市井の生活も死後も保証しないものであることが一挙に白日の下に曝されたのだ。

 その伏線として、江戸の儒者国学者たちによって密かに進行していった「天竺亡国」の情報があったのだ。これを鮮やかに摘出してみせたのは森和也の『神道儒教・仏教』であろう。
 まず、新井白石によるシドッチ尋問を踏まえた世界情勢の記録がある。『西洋紀聞』いや、『采覧異言』である。ここにおいて仏教がすでにインドで滅び、そのインドですらムガール帝国のようなイスラム教に蹂躙されたという情報を白石は入手する。
 西川如見も出島のオランダ人から同様な情報を得ている。また、『夢の代』で山片蟠桃も宗教地理学的な観点からの仏教批判を行った。
 あるいは、異なる文脈で夭折の天才富永仲基も加上説で大乗非佛説を言う。
 こうした一部の知識人の枠を超える問題提起をなし得たのが平田篤胤であったと森和也は説く。
こうした平田篤胤は庶民のアイドル的?な存在となる(島崎藤村『夜明け前』での庶民にまで平田門徒がいたことを想起されよ)
 愛国的国学は庶民の仏教幻想を打ちこわしてしまう。ホトケは何も守護できず、ご利益もない。しかし、国土固有の神々は自分たちを見捨てないというわけなのだ。この種の熱狂がお伊勢参りという集団的躁状態を生み出しているのも見逃せない。


 【参考資料】

 超力作だと思う。

神道・儒教・仏教 (ちくま新書)

神道・儒教・仏教 (ちくま新書)

  • 作者:和也, 森
  • 発売日: 2018/04/06
  • メディア: 新書

 亡き宮田登の二著も出しておきます。

江戸のはやり神 (ちくま学芸文庫)

江戸のはやり神 (ちくま学芸文庫)

  • 作者:宮田 登
  • 発売日: 1993/07/01
  • メディア: 文庫