柳田国男と山中共古が『石神問答』で「さく」「しゃく」「しゃくじん」「しゃもじ」の連関を俎上に載せた時から、古代諏訪あるいは信濃の縄文呪術王国の鉱脈の採掘が開始された。
中世の説教を集成した『神道集』にある「甲賀三郎」の語りは、龍蛇神としての片鱗を見せる。しかし、ミシャグジはその物語りには出てこない。
語りものの精神的血脈を掘り下げたのはドイツ文学者の川村二郎であった。『語り物の宇宙』は意識の古層を語りだそうする試みだったと思う。
諏訪の地方史研究家や今井野菊のような古信仰研究家たちは「ミシャグジ」の伝承を営々粛々と蓄積していった。今井野菊によって全国に2300もの「ミシャグジ」系の神社地名がフィールド・ワークされている。
東日本の住民は近所に「しゃく」「石神」などに関わる土地を苦労せずとも見いだせる。
近年では「ウッドサークル」が越の国から信濃の国にかけての考古学的遺物として注目を集めているようだ。民俗学のみならず考古学が加わったのは藤森栄一からであろう。おそらく分野が異なるが田中基がその後継者的な立ち位置で際立つ。中沢新一もその影響下にあるのは『精霊の王』で明らかだろう。
藤森栄一も思えば時代が呼び寄せたような語り部だった。
不思議にも折口信夫は諏訪信仰にほとんど関心を見せていない。
たしかに『漂著石神論計画』は海から寄りくる石の成長という古代人思考を扱っている。しかし、ミシャグジとは直接関係がない。西日本の海洋民の伝承を集めているようだ。
彼の上方的感性が縄文的な土俗性と肌が合わなかったからだろう。記紀の神話には出てこないからかもしれない。
それと似ているのだが、日本神話では「ミシャグジ」は登場しない。かわりに建御名方神が国譲りの神話の代行をしている。
国学者たち、西郷信綱などはそれほど深い貢献を古代諏訪についてしていない。他方、服部幸雄の『宿神論』で渡来の神であり、芸能民の神である「摩多羅神」と「シュク」「しゃく」の連関を国文学鉱脈から掘り出してみせた。能楽に宿っている神としての宿神と諏訪のミシャグジとはどのような関係なのか、興趣は尽きない。
諸星大二郎の漫画のあるもの、『暗黒神話』などは諏訪地方の遺跡を舞台している。
ネリーナウマンというドイツの学究も縄文の象徴学から精神の古層に肉薄しようとしていた。
中世史学が諏訪地方の精神的な古層発掘に貢献したものは少ないようだ。
諏訪地方は中世においても独自な伝統を保ち続けていたのだが、それを歴史的に明らかにして、古代諏訪の精神的な地層と接続させることが望ましいと思うのだ。
【参考資料】
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