君は丸石神を見たか?

 山梨県下一円にひろがる丸石をつぶさに激写した。

北杜市の街道の一角にそれは鎮座、こともなげに居座っておられる。

 四辻の街道筋にあることから、辻の神なのかもしれないし、背後の屋敷の守護神なのかもしれない。これは山梨特有な典型的な「丸石様」なのだ。

 台座の文字はよく読めず、おそらく当て推量で「祭壇神」なのだろう。目を惹きつけるのはこの真円度だ。
深淵なる真円さが山梨県の地元民の精神性を象徴しているのだろうか。中米のオルメカ文明の石との関係を指摘する向きもあるが、そんな類似性は意味を持たないだろう。
 それにしても、なんとも不思議な祭壇の捧げものである。丸石を捧げたのか、あるいは神体=石神そのものなのだ。

 研究者によればこの「玉」は人工的な作りものではないとされている。古くからの伝承の語るところでは「子をうむ石」の生み出したのが丸石だという。石上堅『新・石の伝説』にはそうした説話が多く引かれている。
 縄文文化の系譜とも関係があるかもしれない。ご近所の井戸尻遺跡の石臼の元型は丸石を連想させる。

 また、甲府市の「石」の民俗研究者であった中沢厚氏(中沢新一の尊父)によれば、山梨県下にはこんな丸石がゴロゴロしているのだという。釜無川笛吹川のゴロタ石との関係も気になるが、いわゆる甌穴とは関連がないようである。
 軒先の庭石に加えて、水晶などの宝石工芸や金山、温泉など石と大地に関わる産業が多い甲斐の国ならでは石への信仰ではないか。

【参考資料】
 中沢厚氏の手厚い研究書。石に取り憑かれ人たちというものコンスタントに存在する。甲州民俗学は山中笑翁の学問の血筋を引くようである。本書にも山中翁へのオマージュ的論文が含まれている。

石にやどるもの―甲斐の石神と石仏

石にやどるもの―甲斐の石神と石仏

新・石の伝説 (集英社文庫)

新・石の伝説 (集英社文庫)