ある日の柳田国男と折口信夫の沈鬱な会話

 戦後(太平洋戦争後)のある日、柳田国男折口信夫のこんな会話を岡野弘彦が伝えている。

 敗戦後、折口信夫は成城に柳田国男をたずねた。
そして二人の間にこういう話が交わされた。
「ねえ折口君、こんどの戦争でつくづく感じさせられたのだが、日本人のようにこれほど死を美しく考え、いさぎよいものだと考える民族は、他の民族より早くこの地球上から滅びてしまうのではないかと思うのだが、あなたはどう考えますか」
 尋ねる柳田の顔も重く暗かったが、尋ねられた折口の表情はさらに沈痛であった。
何分間か、二人は黙ったまま向いあっていた。」

他の民族より早くこの地球上から滅びてしまうのではないか

この切実なる問いかけが、戦後の柳田と折口の活動を駆り立ててゆく。

自己犠牲の精神、あるいは身命をささげて赤心を吐露するという行為は芸能伝承で生き続けたともいえる。
その典型例を『菅原伝授手習鏡』でみよう。