まずは蕪村の秀句から。
河童(かわたろう)の恋する宿や夏の月
柴田宵曲はこれを珍としているが、僅かなことばで妖気を醸す技は尋常ではない。
『山島民譚集』の公刊をもって河童の近代的な研究が始まった。
芥川龍之介は小説のネタとし、小川芋銭が画材とし、水木しげるに及んでいる、その淵源には柳田国男の浩瀚な研究がある。
勿論、その延長上に河童研究の業績はいくらでもある。
しかし、自分の感じでは石田英一郎の『河童駒引考』とアウエハントの『鯰絵』で、すべて言うべきほどの知恵は言い尽くされたようだ。
それが実在するか、あるいは実在したかは問題ではないだろう。ある時期、民族の心眼には河童はリアリティをもつ存在だったというだけで十分だ。
それよりも重要だと思うのは、河童の心的な出自だと思う。どのような文化的・伝承的・民俗的な使命もしくは役割をおびて、人びとの心に在したかだ。
民衆心性にあれば、それは出現することもあろう。いたずらしたり、尻子玉を抜かれて水死者も出ようというものだ。
石田英一郎は「水辺の神」というユーラシア的な系譜を拾い上げることで日本の孤立事象ではないことを論証しようとしている。
それに対してアウエハントは日本における伝承を博捜して、トリックスターとして河童を取り扱う論拠を示す。
馬と河童の関係を重視するのが石田流である。石田の最盛期が江上波夫の騎馬民族征服王朝説の時代が重なることを指摘しておこう。当時、文化は伝播するものだったのだ。
アウエハントは河童がヤマワロと呼ばれ水辺だけではなく山にも出没すること、猿と対比されること、夏と冬に出没することをもとに二律背反的な性格=トリックスター性を取り出してみせる。
どちらも面白い。どちらも岩波文庫で読める。
- 作者: C.アウエハント,小松和彦,中沢新一,飯島吉晴,古家信平
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これを河童というべきかどうか。