オノマトペについて一言

 このことばオノマトペ(擬音語)は、30年前はポピュラーなことばではなかったはずだが、ここ10年くらいで急速に市民権を得た感がある。そもそもの自分のはじめの記憶は萩原朔太郎が論究していた覚えがある。
 オノマトペについての出版はプチブームかもしれない。その『オノマトペの謎』(岩波書店)などから興味をひいた情報を抜書してみる。

 共感覚とのふれあいが擬音語にあるのはとても面白い。
 冷えた感じをあらわす「キンキン」のような身体感覚の擬音語の集まりを「擬情語」という。この手のオノマトペは音を模倣した擬音語とはやや異なる。
オノマトペの謎』では「まも」と「きぴ」という新造語をマルマルとした形とトゲトゲしい形に対比させている。この手の実験はラマチャンドランがやっていたなあ。

 日本語は世界の言語3000なのかで、オノマトペの語彙数は中くらい。英語やフランス語などよりは多いが、タミル語は無制限、ハングルは5000語など日本語の2000よりもっと多い言語がある。英語は数百語だそうで、精確な数字がわかっていないようだ。
 この「2000」は何処から来たのだろうか? 
 本書には記載がないが、手持ちの『擬音語・擬音語辞典』(講談社)は2000語を謳っている。でもそんな少ないのかなと感じることしきり。たとえば「チンタラ」「ホッコリ」は載ってない。富山弁の「キトキト」など方言の擬音語は載ってない。もちろん個人の口癖みたいな「ふぎゃ」や流行語だった「ガチョーン」もない。
 この辞典に記載がない祭りの「ワッショイ」は擬音語でも擬態語でもないとするとなんなんだろうか? 「ドスコイ」もそうだ。
 たぶん、掛け声や囃子詞であろう。これらは擬態語ではないのだろうか?
 ということで、かなり絞り込んだ結果だろうと推測される。
 それにしてもハングルの5000は驚きだ。身近なハングル語にも擬音語があるのだろうか。もしかして「チマ」とか「ちょんがー」は擬音語なのだろうか?

 山口仲美編の『擬音語・擬音語辞典』からもう二つ、興味をひいた事項をメモる。
「くたくた」「くだくだ」「ぐたぐた」「ぐだぐだ」の4語はいずれも良く使うのだが、濁音と静音の組み合わせの変異だけで、異なる意味になる。しかし、その意味は微妙に重なり合う。
「くたくた」=疲れた様子、「くだくだ」=無用なながながとした語り、「ぐたぐた」=まとまりのなさ、「ぐだぐだ」=なまけた感じ

 天狗の鳴き語があるという。「ひょうよろよろ」なのだそうだ。これは「鳶」の鳴き声の擬音語である。天狗は鳶から派生したのだろうという。
 それにしても妖怪の鳴き声が記録されているとは知らなんだ。

この辞典の編者は『犬はぴよと鳴いていた』の著者でもある。

 最後に、オノマトペが多い言語の民族はアニミズムに親和性があるという説明は膝を打ったが、お隣さんのハングルの民族はアニミズムというよりシャーマニズムの方が特徴的なはずだ。

【参考文献】

オノマトペの謎――ピカチュウからモフモフまで (岩波科学ライブラリー)

オノマトペの謎――ピカチュウからモフモフまで (岩波科学ライブラリー)

擬音語・擬態語辞典 (講談社学術文庫)

擬音語・擬態語辞典 (講談社学術文庫)

犬は「びよ」と鳴いていた―日本語は擬音語・擬態語が面白い (光文社新書)

犬は「びよ」と鳴いていた―日本語は擬音語・擬態語が面白い (光文社新書)