60年代だったら、「おー、エリスン!エリスン! ハーラン・エリスン」といななきたいところだ。
日本版オリジナル短編集と銘打って『死の鳥』が刊行され読了したのが、その叫びの主な原因だ。
20世紀のSFの白銀時代は60年代のアメリカとイギリスだったのであろう。ライフスタイルと作品の両方で群を抜くど派手さはハーラン・エリスンの持ち味だった。綺羅びやかな波瀾さ。
彼の最盛期の作品についての簡単な感想を言えば、疾走感のある文体、切れ味のいい描写で暴力的で乾ききった異世界の物語りだ。異世界といってもそれは60年代のアメリカであるけれども、当時の和製日本人(アメリカが憧れの未来そのものに見えていた島国の民)にとっては超獣劇画(戯画ではない)のような鮮烈さを残した。
50年後の蛹化&アメリカナイズされたジャパンで、その同じ残響は聴き取れただろうか?
Yesと答えておこう。ただ、ずいぶんと穏やかな響きにトーンダウンしてはいるけれど。
オシャレでナンセンスなカリカチュア『「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』はエンデの『モモ』のオーウェル+山口昌男バージョンというべきか。今読んでも古い感じはしないが、エリスンの抗議の叫びはやはり遠い響きに聴こえる。
我らの住まう管理社会は時間だけでを監視するものではなくなった。21世紀の管理手段は、もっとフレンドリーで厳しく、ユビキタスでソフトに人びとの心をむしばむものになっているからだろう。
今どきはむしろフィリップ・ケルビン・ディックのSFのほうが贖罪のカタルシス効果があるのかもしれない。
『竜討つものにまぼろしを』は現代化されたビアスだ。ビアスの「アウルクリーク橋の出来事」は南北戦争の時代背景での夢幻劇だったとするなら、この作品はRPGの支配する現代社会での置き換えバージョンだ。その分、落差は大きい。たしかに、描写スタイルはサイケデリックという死語がよく当てはまるが、スマホRPGのCGはサイケデリックそのものかもしれない。
孤独な遊戯は孤独な死と同義であると自分は教訓を読み取ったが、間違った深読みかもしれない。
『世界の縁にたつ都市をさまよう者』は切り裂きジャックが主人公。サディスティクな暴力シーンと勧善懲悪の結末という平井和正的な舞台演出だ。輪郭がはっきりしたこの手の残虐描写は伝説のアンソロジー『危険なビジョン』の一篇たるにふさわしい。初めて読んだ作品だが、十代で読まなくてよかった。
『鞭打たれた犬たちのうめき』はキティ・ジェノヴィーズ事件にインスパイアされたストーリーだろう。1964年3月にニューヨークで起きたこの事件そのものは物語りと同じで大都会の冷酷非情さが当時のアメリカ社会への痛烈なインパクトになった。他人に無関心な住民たちの巣食うアパートメントこそ、悪魔との取引にふさわしい魔界なんだろう。
表題作の『死の鳥』はスタイリッシュさと悲壮感がいい。かつて雑誌で読んだ時の清新なエモーションが甦った。それにしても末尾の「マーク・トウェインに捧ぐ」は唐突だろう。マーク・トウェインは晩年、人間性に大いなる悲観をもった。世界を地獄にしかねない人間のサガを題材にしたファンタジーが『不思議な少年』だ。自分の解釈では地球を破滅させる人間性をテーマにしたからの末尾文なのだ。
幾つか短編が面白いというのが並の傑作短編集というものだが、この文庫本はすべての作品が60年代の市民の反抗のシュプレヒコールの情熱が込められている。あえて言えばエリソンの反抗の遠吠えは21世紀にも響き渡っている。『世界の中心で愛を叫んだけもの』なみの濃厚さを味わえる。
後書きによれば、国書刊行会でのエリスンの新刊小説が再び読めるかもしれない
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世界の中心で愛を叫んだけもの (ハヤカワ文庫 SF エ 4-1)
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マーク・トウェインの遺作はこれである。
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