ゲームによる自己治癒

 ロバート・リンドナーの『宇宙を駆ける男』は精神療法家の症例をノンフィクション・ストーリーである。
 これは、実に強烈で劇的な症例だと思う。
 患者の創造した「宇宙」に療法家が巻き込まれる。
 患者は科学者であり自分が別宇宙に属しているという迫真の白昼夢に溺れている。療法家はその宇宙を患者とともに記述することで癒やそうとする。いつの間にか主客転倒し療法家は患者の宇宙誌を信じこむ、まさにそれによって患者は治癒する。
 だが、患者が精緻に紡ぎだした宇宙誌はそれ自体で患者を治癒する力があったということも出来る。河合隼雄も同じことを主張していた。

 まさにそれこそはゲーム世界で生じているのではないか。
思えば、20世紀中葉から地図をもとにした「幻想世界共有」ゲームは始まっている。紙のゲームであろうが、ネットのインタラクティブなゲームであろうが、共同幻想性はさほどの相違はない。

 人びとは、白昼夢を共有する。稼働する白昼夢か。
 共同幻想に集うことで本来の生活の場である「管理社会」を幻想化する。それには幾分なりとも治癒効果はあるだろう。
 リンドナーのケースにあるように、ゲーマーは患者と療法家を兼ねているのだ。
カウンセラーが患者の「夢」をシェアする技法はユング派の分析でも多用されている。箱庭療法などは代表だろう。
 幻想世界を現実に表出させて、患者を理解する。そこで一緒にヌクヌクしたり、仮想闘技をしたりして、ともに幻想に生きる。
 他者を患者のエゴに介在させることで現実世界に引き戻す営為だ。

宇宙を駆ける男―精神分析医のドキュメント (1974年)

宇宙を駆ける男―精神分析医のドキュメント (1974年)

SF/稼動する白昼夢 (1985年)

SF/稼動する白昼夢 (1985年)