昭和十年頃、柳宗悦は大谷に行った。栃木県の大谷である。濱田庄司が益子に住んでいた。その往路か復路に宇都宮まで足を運んで、この界隈の民芸を調べみて回ったのだ。
大谷石の現場を見たその記録は『野州の石屋根』として残されている。それはそれとして、貴重な記録なのであるが、珍スポットファンとしては、あの大谷資料館の前身が記されているを見逃すわけにはいかない。
大谷の採石場を宗悦は次のように書いている。
もし、宇都宮か日光にでも行かれるついでがあったら大谷を訪われることをお勧めする。そこには見るものが二つある。一つは有名な大谷観音で、これは石崖に彫りつけた大きな仏像で、出来がなかなか立派である。....
他の一つはほとんど誰も知らずに帰るが、是非見ることをお勧めしたい。それは大谷石の発掘場である。深いのになると三百尺というが、その薄ぐらい深みから...
とあり、その奇景を存分に評価しているのだ。さすが宗悦だ。
大谷資料館はその名と印象が異なり、巨大な地下空間の見学場であります。後楽園ドーム大の地下空間が野放しになっているのであります。
地震が多いこの地で耐震設計なしに百年近く持ちこたえている。その理由の一半は寺田寅彦の『天災と国防』を一読願おう。地震波は地下では減衰するのであります。
ともあれ、感性が豊かな宗悦とわれら珍スポ好きの感性が一致したのは、ウレシイ限りだ。
柳宗悦が感嘆した、その場所は、観光化されていて気軽に洞内を拝観できる。
いや、確かに奇観だ。
柳宗悦の民藝紀行を跡を辿り残された伝統を閲するのもまた楽しからずや。
- 作者: 水尾比呂志
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【付記】大谷資料館は東日本大震災の影響で休館中です。被害はなかったものの大事をとっての処置だそうです。