龍と天災

 中世人は猛威を奮う風雨に龍王の姿を見ていたようだし、地震や火山噴火も龍動と呼んでいた。
竜巻は中世人の見立ての残滓だろう。
 地下の穴にすむ龍が何かの機会で突如暴れだす、それは政道の乱れへの怒りからかもしれない。あるいは不敬の振る舞いへの祟りからかもしれない。
 地下から天上へと昇竜する姿を火山の噴煙や竜巻のうちに幻視していたのだ。それも多くの人がそれを「見て」いたのだろう。

 これは中世的な自然観であり、科学の時代の現代人には無関係なのだろうか。 広島市の水害にみられる記録破りのお集中豪雨や大型台風などに加えて、地震の頻発や9月の御嶽山の噴火をまとめて、有機的に考えてみるのは、何ものか示唆することがないであろうか?
 あるいは一つの観点として自然界の造反をエネルギーや資源を無暗に濫費する人類への警鐘と感じるというと月並みな話に堕する。
 そこで、もう一歩進めて、一連の自然災害の猛襲に龍神への畏怖を感じてみるのも情緒トレーニングになるだろう。

龍の棲む日本 (岩波新書)

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