空手演武において西洋型のスポーツや舞踏と異なるのは「静止」の重視だと思う。
水鳥が動と静を巧みに使い分け、水中の魚を捕るのに武道の動作が似るのは偶然ではない。存在を消し対するものを獲物にしてしまう、それが達意の境地の一つだろう。
そう、太公望的な賢者の風格が宿るのだ。アイザック・ウォルトンの名著『釣魚大全』のサブタイトルは″静思する人のリクリエーション”であった。
魚は存在を消した水鳥の前ではもはや獲物になるしかない。気配を感づかれ動きをよまれるだけになるからだ。
よって、『五輪書』で武蔵は言う「静に見ゆる兵法、是上段也」
先に動いたほうが負ける。先に動くことは、先に攻めることであり、手の内をさらすことになる。そこにスキが生じる。攻めとは守りが希薄化することだ。
動中静あり、静中に動あり。
これは人の無意識的な反応からも裏付けれると トール・ノーレットランダーシュは『ユーザ・イリュージョン』で力説している。
ガンマンの決闘で先に抜いたほうが負けるという西部劇のお決まりのシーンがある。これは実験的に正当化される。先に抜くという意識の介在が動作の機敏性を損なうのだ。
「型」という空手の演武を参照されたい。絶えず動きまわるのではなく、身体を止める。
止めていながら次の動きが自在であるためには鍛錬が必要なのだ。「クルルンファ」という演目は沖縄空手の用語だ。
いまや『五輪書』はアメリカ人にとって認知度が高い日本文化になっている。
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