忍夜恋曲者

 歌舞伎の一番「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)」
江戸期の将門ものである。

恋は曲者世の人の、迷ひの淵瀬きのどくの、山より落つる流れの身、うき音の琴のそれならで、妻呼び交はす雁がねの、その玉章をかくばかり、色に手だれの傾城も、

 庶民の哀歓が幾重にも塗り込められている。

かぶき讃 (中公文庫)

かぶき讃 (中公文庫)