風土記逸文というのがあり、千葉に関して一つの伝承が残存している。
千葉の風土記は逸失しているが、諸本の引用によりそれと知れるわけだ。その伝承は短いながら十分に余韻があるコンテンツだ。
下総・上総は、総(ふさ)は樹の枝をいうのだが、昔この国に大きな楠が生えた。長さは数百丈に及んだ。そのときの帝はこれを占わせると神祇官は奏上して言った。
「天下の大凶事である」
これによりかの木を切り捨てると、南方に倒れた。
上の枝を上総といい、下の枝を下総という
中国古代の地理書『山海経』にはこんな記載がある。
扶桑という国にある水の中に大木がある。下の枝に九個の太陽があり、上の枝に一個の太陽が出ると。
扶桑とは日本の異名とされたこともある。枝の上下と巨樹であることが目を引く。
扶桑は巨樹それ自体だともいう。
おそらくは『風土記』の編纂者は中国の伝承を心得ていたのだと思う。
楠に関する巨樹伝承は各地にある。古代日本の人びとにとっては森林は神のいます土地柄であったろうし、
それは外来者にも同じよう伝えられたのではないか。
日本列島は東北アジア域において、威圧するような巨木がもっとも多く茂る土地であり、古代の外来者にはその印象が深く刻みつけられたことも、ありうるのではないだろうか。
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