女性の身投げの記録は古事記・日本書紀のころにさかのぼることができる。有名なところでは、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の妻、オトタチバナヒメは今でいう東京湾に身投げして、龍神の怒りを鎮めた。
これほど神話的ではないけれど万葉集にある「葛飾の真間井(ままのい)」が手近な伝承の土地である。千葉県市川市真間4丁目4番9号と住所まで判明している。
その「真間の井」は、手児奈(てごな)という妙齢の女性が恋に悩んで身を投げた井戸とされている。
葛飾の 真間の井を見れば 立ちならし
水汲しけむ 手児奈し思ほゆ
高橋虫麻呂の歌である。
実は西日本では「真名井」という地名は湧水の場所であり、しばしば神社があることが多い。
京都真名井神社、熊野の真名井社、島根の真名井の清水、舞鶴の真名井...と検索すると続々と出てくる。
「葛飾の真間井」の「まま」は崖のことする説もあるが、ここは「水辺」の意味としておこう。
女性の身投げが水神への供犠としてあったことをここではそっと触れたいのである。例えば、歴史小説(剣豪小説)に出てくる「神田お玉ヶ池」はお玉が身投げした池であった。 兵庫県加古郡の「入が池」は入という女の人柱伝説がある。
枚挙にいとまがないくらい、この手の身投げ伝説が各地にある。
井戸への身投げの記憶は江戸時代の怪談「番町皿屋敷」にも水脈がつらなる。折口信夫の「水の女」はその源に位置する考え方であろう。
現在の「自殺」に話を飛ばす。平成24年の自殺の統計を参照しよう。
女性では「首つり」5,284人(56.2%)が最も多く、次いで「飛降り」1,222人(13.0%)、「入水」709人(7.5%)
この「入水」、それに「飛び降り」もそうだが、地域の伝説とオーバーラップして見える。
自殺の動機は異なるのである。過去の伝承と現在を比較できはしない。
それでも、彼女らの行為を生き地獄である高度資本主義社会からの逃避だけだとするのは、あまりに寂しい、虚しくも凄まじいものの見方である。
彼女らを水辺に誘い、飛び立たしめたものは異界の光景であってほしいのだ。繰り返す。水面(みなも)の彼方に彼女を迎え入れる異界の風景が見えてほしいのだ。
決して自殺を美化するわけではないが、せめて彼ら/彼女らの宇宙像を変性せしめ、その末期が絶望だけで終わることなくしたい。
多重的リアリティと多様性のある可能世界の現存に気付かせたいのだ。
水中の異界のブログでそのイメージをさぐりたい。
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フランス人のこの本で自殺も文化的な伝統儀礼ではないかと気づく
- 作者: モーリス・パンゲ,竹内信夫
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