「技術的特異点=シンギュラリティ」はコンピュータ関係者に馴染みある概念だ。
単純化していえば、デジタル生命体が人類の後継者になる。そんな時代がすぐそこに来ている。そういう法螺と真実性がないまぜになった主張だ。素晴らしい議論である。
個人的にはこんな論議をする連中はスゴイと思う。
実は、初期の人工知能論でも似たようなことが論争になった。人工知能に人間的な知性を宿らせることが可能かどうか。
結論からすると「NO」だったのであろう。
IBMのWATSONが登場したのだから「YES」じゃないかと反論もありえるが、クイズ王もどきが人間的な知性かどうかは、大きな疑問がある。
現在の機械知性はある局面で専門家はだしなのは認める。これは、専門家が機械知性的に考えることを意味するだけで、「知性」そのものとは違う。
専門家は限定されたフレーム=局面で知識を提示できればいいのだ。
Watsonは初期のエキスパート・システムの機能に機械学習と音声認識が追加された仕組みでしかない。
シンギュラリティ論者は機械知性はそれ自体をより洗練された知性に仕上げる能力を持つだろうという。学習アルゴリズムを機械知性が進化させるわけだ。アルゴリズムを進化させるアルゴリズムをもつのがデジタル生命の強みだとする。
このプロセスが加速するとシンギュラリティ論者は信じている。
(それを成立させる機械学習が、おそろしく受験教育に似た詰め込み学習だというのは笑える。Watsonの強化学習はデータベース詰め込みだ)
何と言っても、「2,001年宇宙の旅」のHAL9000とWatsonを比較してもらえれば、それで十分だろう。もちろんHALはあるべき姿の人工知能なのだが、こんな人工知能は生まれていない。自己保存本能や外界認識、自発的なコミュニケーションなどどれも実現していない。
ここでは、その違いを論じるのが目的ではない。
現時点のデジタル知性は、いくら機械学習をさせても進化の覇者=人類の後継者にはなれないと言いたいだけなのだから。
それは人類とデジタル知性の意外な相違に由来する。デジタル知性には「身体」がない。それが決定的だ(と思う)。
外界との直接相互作用を持たないWATSONはいくら知識を専門家なみに駆使できても、それでおしまいだ。身体性と身体性の生得知に相当することを組込みシステム開発は行う。オブジェクト指向開発がそれだ。
オブジェクト指向はカントのカテゴリやチョムスキーの生成文法的なところがある。組込みシステムはメカトロニクスに不可欠なソフトウェア開発手法であるのも注目スべきポイントだと考える。
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ダイソンやカーツワイルらは機械が自己複製を始めればその条件を満たすと考えているようだ。身体性を獲得したデジタル知性は、確かに次のステップであろう。
だが、それば研究室のバイオテクノロジーが生み出した人工細胞と同様に、「外界認識」ができない。人間が文明を維持してきた働きを模倣するのはおおよそ不可能に思える。資源探査、採掘、エネルギー確保、資材調達等々には「他者の身体」を認識することがないと困難だろう。
言い換えると分業と協調はトップダウン原理では作動しない。まして、局面限定型のWatsonの延長のような機械学習はたちまち頓挫するように思える。
ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき
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OOは外界をモデル化することでシステムに外界情報を埋め込む。アプリオリな外部情報と認知をシステムに教えこむようなものだ。
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「2,001年宇宙の旅」の一場面。jeopadyとHALはクイズ番組を予告している!