太平洋戦争の日本の秘密兵器、風船爆弾のオリジンは佐久間象山だったのには、驚いた。幕末の志士の師匠格の象山はペリー来航の際、このような詩を残した。
微臣べつに伐謀の策あり
安んぞ、風船もて聖東に下ることを得ん
彼は洋書で気球の制作法を知っていた。ただの夢想ではない。
黒船の襲来とその傍若無人の要求は、当時の日本人のナショナリズムに火をつけた。
大和民族が他の被侵略民族と違ったのは「技術と理学」への着目である。西洋列強の強さは砲や軍艦のような技術力とそれを可能にした理学への着目であろうと思う。
それをもっとも鮮烈に体現したのは、佐久間象山なのだと思う。
「宇宙に実理は二つなし」
中華の学問ではもはや立ち行かない。それが実理、世界の真の姿だ。渾天儀から地球儀への移行は時局問題だったのだ。
30歳まで象山は佐藤一斎の門下として儒学風の教養を身に着けた。しかし、アヘン戦争の風雲急を告げるに際して、華夷秩序をその世界観ととも捨て去るのだ。
砲と軍艦はもとよりその理論としての実理学、数学の重要性をいち早く認識したのも
象山だと思う。いわば理系的志士なのだ。
松本健一の最後の力作。彼は太平洋戦争の歴史的悔恨の淵源を幕末に求めたというべきだろう。もって彼の情念を想い瞑目すべし。