第二次世界大戦の日独軍事裁判の比較から

 ドイツではニュルンベルク裁判の後にもホロコーストやナチズムの民族浄化に関わる人道的犯罪の訴追を自立的に継続した。その倫理的規範に基づく行動は見上げたものである。
 その独自な訴追の結果はこんな数字に現われている。
1989年時点の集計である。
捜査対象 94,756人
 有罪 6,482人  死刑12名 終身刑160名 有期刑6159名 罰金刑114名
 
また、それ以前のニュルンベルク裁判では24名が訴追された結果、ナチズムの指導者たちへの刑が確定している。
         死刑12名 終身刑2名 有期刑3名

ところで、日本独自の戦争責任の追及の甘さが論じられることがある。ドイツの状況からすれば、身内のユルさが批判されて当然なところがある。

 それにしても、日本のBC級戦犯の結果をみると他国植民地への侵略の罪の償いは十二分に果たしたのではないだろうか。林博史BC級戦犯裁判』によれば刑死者は934名となる。

BC級裁判では七か国によって約五七○○人が裁かれた。死刑が最終的に確認さ
れた人数も、前者が七人に対して、後者では九三四人にのぼっている。

 もう一つの側面はドイツの「戦犯」は民族浄化という狂信行為に従事し、民間人を計画的に殺戮した人びとである。これに対して、日本の「戦犯」は主として捕虜虐待のような敵国軍人への暴行・虐待が主要な犯罪とされたことだ。
 ジュネーブ協定も知らない成り上がり国家が陥りがちな「無知」のなせる犯罪だったといえる。しかしながらドイツのホロコーストほどの悪辣さ非人間性はない。現に五族協和を唱えている大日本帝国であってみれば、民族浄化などは圏外だったといえる。

 大日本帝国戦争犯罪というのは、おおよそ敗北した故の罪であった。「パターン死の行進」など捕虜虐待は連合軍も日本兵に対して頻発していたのは歴史的事実だ。

 例えばB29爆撃機の墜落機の搭乗員に対するリンチはBC級裁判でかなり厳しく裁かれている。しかしながら、民間人を無差別殺人しておきながらその当事者である捕虜を守れるかというと感情的に難しい気もする。

 戦争そのものが非理性的で無差別の暴力行為であるのに、それぞれの敗戦国がどれだけの戦争犯罪をやったか、より正しい裁きをしてるかなどとあげつらうのは、どれほど意味のある反省なのだろう?



【参考文献】
 ドイツの自律的反省の歩みをたどるにはこの本がベストだろう。

ヴァイツゼッカー演説の精神―過去を心に刻む

ヴァイツゼッカー演説の精神―過去を心に刻む

 気の毒な人半分、有罪な人半分のBC級戦犯の実態

BC級戦犯裁判 (岩波新書)

BC級戦犯裁判 (岩波新書)

 国内で裁かれたBC級裁判のケーススタディ