江戸時代の文化的生産力の高さ

 文系出身でなかれば江戸時代の文化などは通りイッペンのことどもしか知らない。馬琴とか秋成や芭蕉・蕪村などだ。しかし、実際のところ江戸人の文化は全国各地で花開いたというべきで、多くの書物が出版された。
 その内容は種々雑多、多彩なものだというのは、この目録をみればわかる。
江戸期の文人たちの随筆だ。
 じつに様々な話題が取り沙汰されている。テレビなどの電子メディアや図書館などない時代だ。身のまわりの些事や噂話を丹念に書き留めるというのが主たるコンテンツになるのは容易に想像できる。
茶飲み話や書簡なども情報源になったであろう。


 三期にわたって吉川弘文館から出版された。なかなかの分量である。自分などは20冊程度を所有するにすぎない。

 これをもとに近代以前の準都市文明の精神世界が開示されている。つまり、テクノロジーに支配されていない人力主義のもとで生きた人びとの感性、大量消費主義や現代的管理社会以前のインナーワールドがある。17世紀から18世紀までの期間に西洋文明とは独立にこれだけの文化的営為を残した民族は数えるほどしかないだろう。

 その価値に気づいた研究者は多い。ここでは宮田登(故人)をとろう。彼の庶民信仰研究の基盤はこれらの市井に生きた文人たちの記録にあった。稲荷や地蔵など流行り神や妖怪や生き神がそこらじゅうに溢れ、伊勢参り大山講などの巡礼などが庶民のレジャーと商売を兼ねていたりする。神々が充満した世界があったわけだ。