今年後半の愛読書でもあった『梁塵秘抄』の四句神歌にカタツムリを題材にしたものがある。
舞へ舞へ蝸牛 舞はぬものならば
馬の子や牛の子に蹴ゑさせてむ 踏み破らせてむ
実(まこと)に美しく舞うたらば 花の園まで遊ばせむ
「舞へ」とは角を出したり引っ込めたりの意であろう。国文学者の楠木朝子によれば世界各地にもカタツムリを扱う歌があるが、この今様はことのほか美しいと褒める。
自分としては、「舞へ舞へ」というとカタツムリの異名の「マイマイ」が思い合わされる。その螺旋模樣のパターンも踊りの旋舞とオーバーラップするようだ。
「まいまいず」は古い井戸の地名にもなっており、東京の羽村市や青梅新町の大井戸のように残っている。埼玉県狭山市の七曲井は最大のものである。螺旋状の階段がこの生きものを連想させたからであろう。
渦巻きの殻、角を出したり引っ込めてのノロノロの動作が人目を引くものであるのは確かだ。でも、現代の歌謡ではほとんど登場することもない。「梅雨時に元気なのはかたつむり 元気なのに 遅い」なる所ジョージの歌が例外か。
さて、気になるのは柳田の研究『蝸牛考』だ。その周到なる方言周圏論はともかく、このちっぽけな生き物に対して、古き日本の人びとはなんとも多くの呼び方、名称を残している。
200くらいの異名を柳田国男は分類し、デデムシ、デンデンムシ系、マイマイツブロ系、カタツムリ系、ツブラ、ツグラメ系などにワケている。そう分類してもはみ出している方言がある、ツノデイロ、ツノダシ、ヤミナ、ムナムシケ、ダシミョウミョウ、ベエコ、ボウリ、オバオバ、ゼンマイ、チンケイ、ゴンゴ、チチtマタ、マシジロ....。
地域差とはおそるべきものだ。
いったい、昔の人は小さな生き物にどれほど親近感を持ったことだろう。ほとんど手のひらにのせて、その動きにまざまざと見入っていたのだろう。カタツムリの名の多さはその親しさの現れなのか、それともパロールの変化の凄まじさなのか。
平安時代の貴族の流行歌ともなった今様にまで、デンデンムシが存在感を誇示しているのも、なんだか意味深いことに思える。
御近所で拾ったマイマイツブロの殻。ほんの2センチだ。殻の中身はカラだった。
【参考書】
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アニメの原作の主人公もカタツムリに共感をもつヒトだろう。
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【まいまいず井戸の場所】
埼玉県狭山市の七曲井