ある晴れた日の午後に、思い立って三河国一之宮、砥鹿神社に詣でた。
三河国一之宮の所在は愛知県の東部、豊橋から内陸に入ったところだ。JR飯田線で30分か。三大稲荷で有名な豊川から一駅目だ。しかしながら、そこから単線となり一時間に1,2本に減少する。
余程のことがないかぎり、遠来の局外者は訪れはしまい。不便だが、不便なゆえに古さびた風情のある古社の趣きをいまにとどめているのだろう。
しかし、川村二郎はその「一之宮参り」の記録をこの神社から始めている。その感想は要を得ているが、いささか短いものだ。
さし当たりは、砥鹿神社が、荒れ狂うことを知らない穏やかな豊川の流れを前にし、雪に白く装われる日はまずない本宮山の頂きを跡にして、この温和な平らかな土地の要に鎭まっていることをいえば足りる
御祭神は大己貴命である。であるにもかかわらず「とが」という名であるのは興味を惹かれる。
参道は国道に面して長く続く。両側に広葉樹の高木を配し、敷石も玉砂利にも人工の感じがなく、実に好ましい。社殿は質素であり村の鎮守の趣きがありながら、凛とした風格がある。
さらに境内の片隅に荒覇吐(アラハバキ)神がひっそりと祀られているのが、なにやら古代の香りを漂わせている。非征服者のシンボルである謎の神というイメージがあるので、中部地方にその痕跡があるというのもミステリアスでいい。
奥宮は背後の本宮山の上にある。ここからは三河平野が一望できるのであろう。
三河一之宮駅は鄙びた駅である。駅員はおらず、駅前商店街などはその気配さえ感じられない。
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