ブラタモリでのタモリの凝り性は、なかなか隅に置けない。しかし、その原型は荷風にあるよね。
誰もが知っているが読んではいない名随筆『日和下駄』を紐解いてみよう。
こんな表題が並ぶ。
日和下駄(ひよりげた)
淫祠
樹
地図
寺
水
ロジ
閑地
崖
坂
夕陽 富士眺望
東京の隠し味をすべて拾い上げているのが特色だ。崖と坂、それに地図だ。
タモリの原点がある。
東京は縄文時代からの時代の積層が営々とうずたかくなって出来た不思議な場所だ。
ヨーロッパの都市のような一律さや均質性がなく、計画的秩序とカオスが入り混じったハイブリッドなトポスだ。
それが、『水』と『樹』と『淫祠』だ。
水については幸田露伴の卓抜な水都東京論があるけれど、生活者の視点からの水運都市江戸のなごりを惜しむのは、最後の文人だから成し得るのだろう。
樹。江戸は文字通り庭園都市であった。
大名屋敷と寺社仏閣には広大な緑地を蓄えていた。下町は水路が巡らされていたのと対照的に山の手はみどりに被われていたと記録にある。
淫祠は啓蒙政府のプロパガンダの犠牲者であった、無数の迷信の跡地を拾いあげる。その心持は懐かしい。
江戸のグーグルストリートビューが残されていれば、大都市の別の存在様式がありえたことが一目瞭然であったことだろう。
今や地表に残る大都市は西洋化したアスファルト・ジャングル、摩天楼という自然に対峙する要塞都市だけなのだ。
荷風随筆集 上 日和下駄 他十六篇 (岩波文庫 緑 41-7)
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