このところ映画で話題になったゼロ戦。『風立ちぬ』で取り上げられ、さらに『永遠の0』では特攻隊の搭乗機として若者たちのマインドに蘇えっている。しかも、隣国との領土摩擦できな臭いご時世である。
特攻隊の精神なるものがどのような伝統を背負っているかを振りかえてっおく。其の際に、特攻隊の悲劇を歴史的に捉えた方が、日本人を裨益するところ大だと思う。その歴史的先例はないことはない。
端的にいえば、大阪の陣である。
まずは、特攻隊を美化するつもりはないことを宣言しておく。
誤解されるのは回避しておきたい。あれは軍国的な権力の濫用による近代的自我(学徒の青年たちの迷いや悩みを見よ!)を抹殺するという無残な行為であった。愚挙であるのは言を俟たない。
しかも、ヒロポンでヤク漬けにされ、ボロボロになるまでの訓練の挙句の果てに、私生活と青春を奪われた末にあるのは、生きて帰らぬ一方通行の戦闘だった。英霊と祀られて済むはずもない。ちなみに学徒が飛行機乗りに採用されたのは、頭脳明晰なエリートであるからだ。飛行機の操縦には高度な知性が要求されていたのである。
それはそれとして、死の美学があることから、論じてみよう。はじめに、歴史的先例である大阪の陣の歴史心理的な解明を試みる。
大阪の陣において、とくに夏の陣では開戦時から大阪方には必敗ということは両軍に知れ渡っていた。それでもなお、豊臣方に味方する将兵たちの心情は、徳川方の将兵すらも心服させるものがあった。
無理難題を突きつけ太閤の遺児を亡き者にしようとする、そのアコギさ。赤子の手をひねるように豊臣家を孤立させてゆく、その悪辣さは大いに正義感を挑発するものであった。
豊臣方の将兵には「弱きを助け強気をくじく」 そんな心意気があった。しかも、必敗の戦いである。当然、大阪方に味方するなどは通常の人物ならありえない。
サムライは、そんな利では動かない。命を捨て名を取るのが武士なのである。
そして、大阪方には傑物がいた。
後藤又兵衛などは死のイデオロギーの中心的存在であった。そう書くのは司馬遼太郎である。
明石掃部はキリシタンの英雄である。木村重成は士道の華というべき存在。
それに加えて、真田幸村だ。
戦闘に帰趨はここでは触れまい。
戦後、どのように徳川方の将兵に評価されただろうか?
「真田日本一の兵いにしへよりの物語にも無之由(これなきよし)惣別これのみ申事に候」『薩藩奮記』
「及二一戦一(いっせんにおよび)戦数刻相支(あいささえ)候て、半分は味方、半分は大阪方勝にて候ひつれ共、此方の御人数、数多有レ之(あまたこれある)に付き御勝に成る」『細川家記』
菊池寛のまとめを引用しておくとしよう。
大阪陣の文献は、みんな徳川時代に出来たものであるにも拘わらず、大阪方の戦死者は、賞めちぎられているのは、幸村、盛親、基次、重成など、典型的な武人として、当時の人心を感動せしめた為であろう。
敵方を感服せしめたのは、滅び行く豊臣家に忠節をつくし、本分を貫いたその男気=サムライ魂である。それが可能であったのは、豊臣家→国体=銃後の家族を守るに置き換わるだけであろう。
当時、連合軍の無差別爆撃は老若男女を問わず無辜の市民を虐殺しつづけていたことを閑却してはならない。誰であろうとそれに対して奮起して、反撃を試みるのではなかろうか?
ここにおいて、特攻隊員たちは「大阪方の将兵」と変わらない立場に立たされる。「必敗、必死の戦いにおいて、圧倒的優勢なる敵に一矢報いてやろう」という気負いが生じてくるのだ。それが日本的心性の伝統なのである。
柳田国男翁と折口信夫が終戦のみぎり、こう語り合っている。
「折口君、戦争中の日本人は桜の花が散るように潔く死ぬことを美しいとし、われわれもそれを若い人に強いたのだが、これほどに潔く死ぬ事を美しいとする民族が他にあるだろうか。もしあったとしてもそういう民族は早く滅びてしまって、海に囲まれた日本人だけが辛うじて残ってきたのではないだろうか。折口君、どう思いますか」
wikiより
島国が育んできた悲壮感の高揚とその散華的終末、それは歴史的に孤立しているわけではないのである。
「大阪城の勇士の事を思うと、人は一代名は末代と言う格言を素直に肯定出来る。」
という菊池寛のことばは特攻隊の戦士にも当てはまるとのだ。
【参考文献】
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