大友皇子というてもマイナーな存在で
壬申の乱で天武天皇に負けた天智天皇の息子というと、
「ああ、なるほど」という人も現れるだろう。
そのくらいの影のうすさだ。
歴史上でも、どのような人物か、事績や逸話がほとんど見当たらないのだ。
wikiの「弘文天皇=大友皇子」記事でも、在位が半年で即位したかどうかも怪しいとしている。
それでも、謀反で滅ぼされた悲劇の王子だからか、逃亡伝説がある。
そのなかでも千葉県にまで逃げのびたという伝説を調べてみた。
場所は「小櫃(おびつ)」であります。またまた読めない地名だ。
鉄道ファンには人気の久留里線の小櫃駅がある。房総に難読地名が多いのは古代の文化の名残なのだ。
この近くの白山神社と白山神社古墳が大友皇子の終焉の地とする伝説がある。小櫃の名も皇子の柩からきたというのだ。
滋賀県から千葉県の片田舎までよく逃げたというより、大友皇子の側近がここまでたどり着いたということなのだろう。形見の品をもって辺境まできて、菩提を弔うくらいはしたのだろう。
周囲の地名が面白い。壬申山、田原御所などがある。
さらに大多喜には后の十市皇女の難産の場所まであるというから、手が込んでいる。
加えて畳み掛けるようにして、近所に筒森神社を創建し、亡き皇女を祀る千葉県民を尊敬してしまう。
そして、柳田国男である。『流され王』においてこの伝説を取り上げ、貴種流離譚の心性を探ろうとしているのを忘れてはならない。同じく『日本の伝説』では小櫃の
伝承を取り上げた。小櫃の俵田にある子守神社では、京都からきた尊い方の乳母が咳の病気で亡くなったという。その神社に甘酒で願掛けすれば咳が取れるという。
京都由来の貴人というのが小櫃の伝説の特色なのだろう。
千葉に多い難読地名。私見では、難読地名は古代の伝統がいまだにアルということなのだ。その場所がひなびた土地であればあるほど、古代の息吹きみたいなものが感じられて、なんとなく懐かしいものがある。だから千葉県民が難読地名を誇りにするのは正しい。
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柳田国男の分析「流され王」はこれに所収されている。
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「上総王朝」の伝説を系統的に知りたければこの本ですね。
『別冊歴史読本 不思議ニッポンミステリー読本』