客観的な理論の装いを凝らしたゲームの理論は20世紀数学・科学の記念碑のひとつだ。
そこにイデオロギーがあるなんて指摘は、へそ曲がりしかしないだろう。
だが、欧米流の思考の流儀とでもいうべき暗黙の前提が含まれているのは、かなり確からしく思える。
その流儀は単純である。
ゲームのルールに従え。そのなかで、勝負を競え。競争しろ。従わなければアンフェアである。
これがゲームの定義でもあるのは異論はない。
だが、その結果、
ルールを無視するのは、蛮人である。いや、文明人・文明国家ではないので排除するのは先進国の義務であり、裁きも先進国の裁量に委ねる。
さらに、暗黙の前提がある。ルールは早い者勝ち、あるいは勝ちを占めているものが創り上げる。
ルールは俺達先進文明国しかつくれない、というのもここに含意されている。
法の基の統治、国際法、三権分立などの司法制度などなど、それは、ヨーロッパ圏の地域協定でしかない。他国(他の地域では国すら意識していなかったのだが)は「いやしくも文明国の仲間入りをしたければ」、彼らをみならった統治方式を採用するしかなかった。
そうすれば、初めて市場という取引のプレイヤーになれるのだ。それはそれはいいことずくめだ。西洋の豊かな生活と高度な文化、進んだ科学技術の恩恵を受けられるのだから。
だが、これこそイデオロギーだと思う。
かといって、代替物などを提供できる民族や地域などはなかったのも事実だが。
しかし、ゲームに参加しないという選択肢を選べば、アメリカインディアンの大半の部族のように滅ぼされたろう。大航海時代以降、それは否応なく襲いかかったのだ。
別に帝国主義の時代を論じて、どうのこうのいうのではない。その結末としての世界に住んでいるし、安住しているのだから。
自分たちの住まうこの世界、西洋文明の築いた世界しかないというゲーム理論の潜在基盤が、ケッタイと感じるのだ。
その点、西洋諸国のご先祖である古代ギリシア人はバルバロイに対して畏敬の念がまだあった。
プルタルコスの「対比列伝」のアゲシラーオス伝は、示唆的である。
この武略に優れた王は傭兵隊長として蛮人と戦うときに、おおいに懸念を示したそうだ。かの部族は戦術を知らないがゆえに恐ろしい、と。経験豊かな王は、果たして戦闘に破れて死んだと伝わる。
これはゲーム理論でいう「勝つためにはルールを変えろ」ではない。ルールなどはこちらの思い込みでしかないということなんじゃないかな。
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