南ドイツからオーストリア、ハンガリーにわたる広い地域に700以上もの地下トンネルがある。エルドシュテーレと呼ばれる遺跡はそれほど古いものではない。10世紀から13世紀のあいだに人工的に掘られていることがわかっている。
日本でも知られるようになったのはナショジオの書籍『絶対に行けない世界の非公開区域99』(2014年)からだろう(ググってもそこからの引用記事しかないので、おそらくそうだろう)羊頭狗肉で絶対に行けない場所ではないが、なぜこうした穴が掘られたか、ことを地域住民すらも忘れ去ったことだ。
この謎の遺構を取り上げている書籍については、フォーティアン協会のレポートやフランク・エドワード、あるいはあまり期待できないけどデニケンなどが触れている可能性はある。しかし、ここでの関心事ではない。何と言っても存在感が希薄なことを以下に書き留めたいのだから。
ナショジオ書籍の扇情的扱いと対比すると本家のドイツの「Erdstall」のwikiの扱いの薄っぺらさも驚くべきだ。それほど神秘的でもなkれば大規模でもなく、住民にとっては生活の一部になりすましていることを示唆しているようだ。
生活空間のなかにあって、貯蔵庫や廃墟扱いされている点で日本における「防空壕」跡地に似ている。当時はやむにやまれず掘ってみたが、もはや歴史のなかに埋もれつつあるわけだ。なまじっか庶民的であるがゆえに、言い伝えも伝説も残らずということなのだろう。
10世紀のヨーロッパといえば、「暗黒の中世」の最中であり、おそらくはローマ教会治下のカソリックがヨーロッパを支配していた。しかし、ゲルマン人の伝統や風習は辺境において完全に絶えたわけではない。そういう時代背景と無縁ではない遺跡であるようだ。民間のゲルマン的精神風土が消え去ったために、誰もなにも記憶していないのだろう。
そうした忘れっぽい人類が放射線廃棄物保管をいつまでも伝承できるかは、きわめて切実な問題だ。文字の記録は何世紀までその意味を保持して、子孫に伝えられるか。いや、子孫を飛び越えて後継者たちたち、はてまた、その文化の終焉後の他の文化圏の人びとに継承できるだろうか?
絶対に行けない世界の非公開区域99 ガザの地下トンネルから女王の寝室まで
- 作者: ダニエル・スミス,ナショナルジオグラフィック,小野智子,片山美佳子
- 出版社/メーカー: 日経ナショナルジオグラフィック社
- 発売日: 2014/12/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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