巨大な天体観測施設の神話的な解釈

 南米チリのアタカマ砂漠の標高約5000メートルの高原にある巨大な天体観測施設『ALMA』、すなわちアルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計:Atacama Large Millimeter/submillimeter Array =『ALMA』)を例に、その神話学的側面を読み解いてみる。

 アタカマ高原のなかほど18kmの範囲に66台のアンテナを配置する。アンテナの直径は12mと7mとなかなかに大きい。その総額は1000億円以上、1/4を日本が負担している。

 この施設はアルマに関する国立天文台サイトによれば、こうだ。

直径12メートルのアンテナを50台組み合わせるアンテナ群と、直径12メートルのアンテナ4台と直径7メートルアンテナ12台からなる「アタカマコンパクトアレイ (ACA:モリタアレイ)」からなる。
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私達の地球がある太陽系がどうやってできたのか、その太陽系がある銀河系がどうやってできてきたのか、そして我々の素となる生命の材料はどこからやってきたのか、アルマがいざなう、これらの謎を解き明かす旅は、私達のルーツを見出す旅でもあるのです。

 このアレイの象徴的な意味は、おそらくストーン・ヘンジなどの環状列石に奇妙にも似ている。
エリアーデを引用しておこう。
「建築供犠というものは根本において、この世界成立の起源をなす太初の供犠の― しばしば象徴的な――模倣にほかならない」
この宗教学者は「建築供犠」によって、聖なる宇宙の模倣を行ってきたとする。始原を探求する空間として聖なる宇宙を模した「祭儀場」を人類は築造してきた。大聖堂のように当時の富と技術を惜しげもなく投じて、神の創造の地点にアプローチ(黙想か思索か、模倣かにより接近する)してきたのだ。
 ALMAは21世紀現代文明でも過去の伝統を背負っていることの現れであろう。

 いささか興味があるのは、その幾何形状が中世の大聖堂や東洋の大寺院ではなく、石器時代の巨大構築物に類似となったことだ。
 いくつもの巨大な柱が古代の巨石群のようにならびあっている。それは遥かな天の一点を指向している。天上界で起きた聖なる創造の時と場所に向けて、競うようにそそり立っている。
 先端的テクノロジーの詳細は忘れ去れ、そのシンボル性のみが伝承される。これは奇をてらう発言なわけではない。アメリカの学際的な研究結果でもある。

 数千年前とおなじ目標に捧げられた「祭儀場」だ。そして、数千年後にはその技術的な意味は忘却の彼方にあって、ストーン・ヘンジ同様に神秘な場所になっていてもオカシクはない。





【ACA アタカマコンパクトアレイ】
 現在の完成状況ならびに巨大なアンテナ群のアレイはMapを拡大すれば知れる。



 エリアーデの比較宗教学の代表作。膨大な研究成果をバックにしている。