成長偏重の経営戦略を統計的に斬る

 アメリカの伝説的な経営者ジャック・ウェルチは「業界で1位を目指せ」とした。大企業であるGEをそうした原則で育て上げたとされる。
だがそれが行か程のものかはかなり疑問がある。
 そのためには、絶えず事業部門を四象限にわけてマネージするというボストン・コンサルティングの手法も登場するわけである。成長部門を維持・拡大するために全力を傾注せよというわけである。成長部門はコンスタントに収益をあげる。そのためには絶えず成功し続けるためにメジャメントを管理することとなる。
 これが回帰法則、これはゴルトンが発見し、カーネマン&トバツキーらが経済学で蘇らせた統計法則と矛盾することは、案外誰も指摘していないようだ。

 レグレッションとは、ある一定の傾向に戻ってくる現象を指す。スポーツの世界でいえば、1シーズン中にMVPとなっても次のシーズンではそうではない。打率一位を10年間、いや5年間でも持続したプロ野球選手はいない。
 必ず平均方向に引き戻しがある。経済心理学はそれを経済領域で発見し、定式化した。つまり、成長部門を管理するのに、その構成要素たる商品や営業マンをベストなまま保つのは、回帰性の法則に反するわけだ。
 10億円売上を個人が継続するするのは100億円の売上を10分割するようなケースだけであり、新規案件で10億円を毎年獲得するわけではない。

 ある商品の高収益性が持続しないことはファイナンシャルの専門家も認識している。バレブ、バーナード、ヒーリーの『企業分析入門』はコーポレートファイナンシャルの定評がある著作の一つだが、売上株式利益率がどのような企業でも高価格を維持できないと指摘する。

 その一方で、経営者は短期的視点で売上や収益性、高成績ばかりを追うような圧力を受けているという事実もある。だが、それをむやみに原理原則化すれば自縄自縛となって金の卵を産む雌鳥を絞め殺すことになるのだ。

企業分析入門 第2版

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