そのような写真家がいればそれはそれで良いことだ。
いたるところにありながら、誰も注意しないものに、しかも、一瞬しかこの世界に出現しないもの。そういう意味では「影」は記録に値するであろう。しかし、影の美しさなどというものがありえるであろうか?
Wiredで「「影」をテーマにした読者写真7選:画像ギャラリー」というのがあった。2009年の日付だが、誰も「イイネ!」ボタンを押していない。
ところで「影」を扱った文学というものはどれほどあるだろうか?
シャミッソーの『影を失った男』のような海外ものは除外しておこう。
また、『蜻蛉日記』はゴロしかあわないのではずれとしておく。
芥川龍之介の『影』は青空文庫で読めるので既読の人も多かろう。岡本綺堂の『影を不踏まれた女』も同様だ。むかし、旺文社文庫にあった。
宮本百合子の『片すみにかがむ死の影』もあるようだ。
ここまで来ると「影」の文学は人生のほの暗い側面を描いたものが多いように思えてくる。
正岡子規の『ランプの影』も病床での幻想が主題になっている。豊島与志雄『影』も怪談めいたものだ。
というわけで、影専門の写真家は出ない文学の余談になったわけだ。