ブータン国王と日本のポジション

 ブータン親日というか、日本をこころの友と思ってくれる国の一つでしょう。
今回のワンチク国王の来日はその感を深くしました。何しろ、我が国が国王の新婚旅行の第一にして唯一の旅先であるのです。そう長くもない新婚旅行の日程から、一日を割いて被災地を訪れ祈りを捧げているのですから、我が国への心情はうそ偽りや損得勘定ではないのです。

ちょっと。ここで、話は飛びます。
 ディズニーアニメの名作『ライオンキング』がヒットした頃、手塚治虫の「ジャングル大帝」のパクリではないかという指摘があったのを覚えているでしょうか。手塚事務所は模倣があるとしてもそれは光栄なことというような厳かなコメントをしていたが、その当時から日本のサブカルチャーの実力というものが、ジワジワと意識に浸透してきたような、今にして思えば、そんな気がしたものです。
 宮崎アニメが立て続けに芸術性の高いアニメを、その後出す。大友克洋の『AKIRA』が独自のスタンスと世界観で欧米にインパクトを与えたあとのことでした。漫画みたいな庶民芸術にまで手を抜かないそうした国民性、一億総アルティザンが、今では世界的に認知されているように感じるのです。
 『ライオンキング』とは異なる次元にある芸能・芸術というものが日本にはあり、それが十分価値があることを日本人自身も含めて、世界が認識しているということでしょう。

 訳知り顔にアニメ論を持ちだしたわけではないのです。そうした身近な事例から、ワンチク国王と似ているポール・クローデルの発言を噛みしめたいだけです。
 20世紀のフランスを代表する詩人、駐日大使でもあった彼はある席上でこう語ったという。

「世界で最も滅びてほしくはない国、それは日本であります」

 この11月の来日で、ブータンワンチク国王が語ったのもそれと同じ心情であろうかと思うのです。

「卓越性や技術革新がなんたるかを体現する日本。偉大な決断と業績を成し遂げつつも、静かな尊厳と謙虚さとを兼ね備えた日本国民。他の国々の模範となるこの国から、世界は大きな恩恵を受けるでしょう。」

 ブータンにはダショー西岡という広く尊敬された日本人がいたそうです。農業技術者であった氏は日本の伝統農業をブータンに定着し、彼の国の食糧保全と質の向上に多大な貢献をしたといいます。「ダショー」は民間人の最高栄誉を示す称号です。アジア国土にあわせた生活面の改良というのは日本的な伝統の得意技なのでしょう。

 その日本の文化的伝統を一歩距離をおいて語れば、極限的な簡素さと高度な技巧の洗練された融合といえます。それは美術や工芸だけでなくものづくりにも行き渡っているようです。
 日本通でもあった「マネジメントの神様」ドラッカーが看破したようにこの国の文化的伝統はその経済活動の本源と根を同じくしているのでありましょう。http://d.hatena.ne.jp/Hyperion64+singularity/20110929
 独自の貢献と役割を果たしているしそれを評価している国々がある。今回の大震災と原発事故という大難の海外メディア報道にも、それを感じさせるものがありました。災禍においても健康長寿においても芸術技術においても、他国にはないものを兼備する国民であると。

 そうした独自のポジションに日本が、日本人があるということは、十分自覚すべきことなのだと思うのであります。