忘れたはずの青春の情緒

 老いてなお、若き日の情緒を思い起こすのはまれだけれど、折に触れて記憶のエッジにその残滓が接触することがある。

 わけてもフレーマブルな情緒は一瞬の至高状態だろうか。ナルシズムとヒロイズムが紡ぎだした全能感だろうか。

 自己の生の全一性と真正さが証される、ほんの須臾の体験なのだ。

例えば、見知らぬ大都会の外れで若い人と交叉する瞬間に、相互に理解と共感が行きまわじわったというビジョン。