田原市史跡を行く

 愛知県の田原市といっても、それほど知名度が高い土地柄ではない。渥美半島の市町村といえば地理的には理解してもらえる場所だろう。三河地方でも南部であり、温暖な気候に恵まれていた地域だ。
なので、杉浦明平を思い出してしまう。この土地で養蜂や野菜ずくりをしながら、作家業を営んでいた生活力ある文人だ。
 彼がイタリアのルネサンス期ものの訳者であることも、明るい土地柄にふさわしい気がする。
 豊橋電鉄の終点が田原市の中心部への入り口になる。区画整理は進んでいて道路が広い。市の中心は城址であろう。そこには華山神社なるものがあり、その隣の市立博物館の展示物は渡辺崋山一色であった。
 その土地の歴史的な感覚なのであろうけど、地元の英雄といえば華山なのだろう。譜代大名三宅家の家老、洋学者にして優秀な写実派画家であり、悲劇的な最期を遂げたとあれば、それを慕わないほうが難しい。


 自然も残るが工場地帯も三河湾ぞいに発達している。そのせいもあり、若者や家族連れも多く街並みは活気があった。今回は行けずじまいであったけど、渥美半島の先にある杜白の幽閉地にも訪問する日がこよう。芭蕉の愛弟子で、罪人となった彼の寓居へ足を運んだはず。