小数の専門家vs多数のマニア

 マーケティング関係者のあいだでは、売り場の担当よりも来訪客、ディーラーよりはカーオーナー、専門医よりは特定の傷病患者の方が知識が豊富になっていることが常識になっていた。

 目利きの消費者が増えてきた。
 背景としては、商品の数や種類が増え、日々追加更新される。商品情報が容易に誰でもがアクセスできる。企業のみならず一般ユーザが情報を開示する。とくに一般ユーザの情報はVOC(消費者の声)ともいわれ、体験を語るものとなっている。

 専門家同士がコミュニティ(学会)をつくるように消費者もコミュニティを形成するようになっている。かくして、知識とその共有については専門家と一般人の境界は曖昧になっているようだ。
 両者の違いは方法論に基づく系統的な学習・訓練の有無くらいであろう。

 この違いがまったく無くなるのは、新しい知識分野であろう。
 興味を持つ多くの非専門家の見解を鳩合してみるのである。誰も系統的に考えてみたこともなく、誰も全体像を考えたこともなく、元になる「事実」すらも集められていない、そうした分野で「ニュー・ヴィッセンシャフト」を開拓するには、このようなwiki的方法が有効なのではなかろうか?

 ジェームズ・スロウィッキーが描いて見せたいように、人びとの知識・情報・体験を適切に組織化するならばいい。
 そうすれば、たこつぼ型の専門家による詳しいが的を得た分析かどうか、誰にも判断しえないような見解よりは、よほど受け入れやすい見解が出てくる可能性があるというものである。

「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)

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