エノケンの「エノケンの天国と地獄」

 「エノケンの天国と地獄」(昭和29年)はあまり評判はよくはないようだけれど、後々のカムバック現世もののハシリだ。つまり、この世に未練を残した主人公がその贖いのために戻ってくるというヤツ。
 それに主題歌「私の青空」は、知らぬものはないはず。
日本のサラリーマンのマイホーム主義の主題歌だね。

同じストーリーが、米国でミュージカル映画ともなっている。1956年のことだ。
回転木馬』という。
 けれどもエノケンのほうが早い。

 この原作はハンガリーの作家モルナールの『リリオム』だと思う。
同作は戦前には盛んに舞台にかけられている。

 ストーリーはスッキリしている。
 お人好しのならず者リリオムは、つまらぬ盗みをしようとして死んでしまう。それは生前に、心配をかける以外になにもしてやれなかった妻子のためにしたことだった。
 やがてあの世から現世に数時間だけ戻ることを許されたりりオムがしたことは...。

 リリオムに手を叩かれた娘のセリフが、クライマックスだ。

お母さん、あたし打たれたのにちっとも痛くなかったのよ。まるで、誰かに手をキスされたような...

 


リリオム (中公文庫 C 17)

リリオム (中公文庫 C 17)