死の予行演習としての歯石掃除

 幸いにして、耐えがたい痛みに苦しむ病気にはしばらくかかったことがない。とはいえ、やがて死は訪れる。そのまえに苦痛や激痛もあるだろう。

 自分にとっての苦痛の試練の場は歯医者である。なかんずく、歯石除去をもって死の予行演習として甘受している。

 古来、歯痛というのは人類の悩みのタネだった。とくに近代化が進むと開化された市民は痛みにたいする感受性を増大させたといわれている。

 傷つきやすい文明人といったところか。自分も痛みには弱い。虫歯治療のドリルのキーンという音をきくだけで、鳥肌が立つのだ。